両槻会(ふたつきかい)は、飛鳥が好きならどなたでも参加出来る隔月の定例会です。 手作りの講演会・勉強会・ウォーキングなどの企画満載です。参加者募集中♪



飛鳥咲読




第14回定例会
野守は見ずや 名柄の遊猟(みかり)
―田村薬草園に、藤原京出土木簡記載の薬草を訪ねる―

笑いネコ・P‐saphire
Vol.46(09.3.20.発行)~Vol.50(09.5.1.発行)に掲載



【1】  (09.3.20.発行 Vol.46に掲載)

 両槻会第14回定例会は、藤原京から出土した木簡に書かれている生薬は、どんな薬草から作られるのかを実際に見て頂くという企画です。
 その飛鳥咲読として、笑いネコ担当でこれらの生薬の植物としてのお話を、P‐saphire担当でハーブや食用としての利用のお話を、ということで交互にしていこうと思っています。脱線することもあると思いますが、お付き合い下さいませ。(^_^;)

 生薬の話を始める前に、藤原京出土木簡のことについて、少しお話ししておきます。
 参考にしたのは、奈良国立文化財研究所から1989年5月に出された「飛鳥・藤原宮発掘調査出土木簡概報(九)」という報告書です。これは、藤原宮第55次、第58次、第58‐1次、第59次、第58‐5次調査で出土した木簡についての報告で、このうち生薬名と思われる記載が見つかっているのは、第58次と第58‐1次ですが、ほとんどが第58‐1次調査地から出土しています。
 この第58‐1次調査の調査地は藤原宮の西南部で、宮西面南門の位置と宮に先行する条坊遺構である五条大路の規模を確認する調査だったのだそうです。
 木簡は、この調査地の西面内濠SD1400という遺構から出土しました。出土したのは136点(内削り屑67点)で、35点に生薬名またはそれに関係有ると思われる記載があります。
 記載の多くは「人参十斤」というように「生薬名+量」という形で書かれていて、それに産地と思われる地名が書かれているものもあり、納品書のようなものだったと思われます。
 また、とても興味深いのは、「□□□四両桃四両桂心三両白■(草冠に止という字)三両□車前子三両防風三両□両栢実一両 右九物」(□は欠字です)と書かれた木簡です。はっきり読めるのは6種類ですが、最初の「□□□」や車前子の前の「□」、防風の次の「□両」という部分にも生薬名があったとすると、9種類になりますから、これらの9種類の生薬を配合して漢方薬を作る処方箋のようなものだったのではないかと、想像をたくましくしています。
 さて、藤原京から出土した木簡に書かれている生薬名は、これも生薬かな?というのを入れると40点くらいになります。今回は、田村薬草園で見られるもの、漢方薬やハーブなどでよく知られているもの、野草として身近に見られるものを中心に話を進めていこうと思います。

 トップバッターは「丁字(チョウジ)」です。
 第58次調査地出土の木簡には「鳥児大豆塩无」と書かれています。木簡の文字は、万葉仮名のように音を当てたものが大半なので、この最初の「鳥児」が「丁字」だと考えています。「丁字」はインドや中国では紀元前から利用されていた記録があり、正倉院御物の中にも標本が保存されているので、木簡に書かれているのが「丁字」である可能性はかなり高いと思います。
 で、この「丁字」ですが、一般には「クローブ」として知られているハーブです。
 分類はフトモモ科フトモモ属...って何よ?(笑)
 フトモモ科でみなさんがよくご存知なのは、「ユーカリ」でしょうね。
 コアラの食料になる、オーストラリア原産の常緑高木...実は、ネコの家にも1本ありまして、「蚊避けになるレモンユーカリ」というふれ込みで、生協のカタログに載っていた小さな苗木を買ったのですが、蚊避けはともかくとして、これがどんどん育って、今や二階の窓の高さまで...どうしよう?!状態なのであります。(^_^;)


レモンユーカリ

 同じオーストラリア原産のものでは、「ブラシノキ」があります。
 熱帯アメリカ原産の果樹「フェイジョア」や「グァバ」もフトモモ科です。

 丁字はインドネシアが原産の常緑高木で、10m以上に育つものです。
 利用されているのは、この「蕾」を乾燥したもので、名前の由来も「蕾」の形からきていて、蕾の形が釘のように見えるからです。丁字は丁香ともいい、薬効は坑炎症、抗菌、抗酸化、食欲促進などで、健胃作用、整腸作用もあり、胃腸薬、風邪薬としても使われます。

 次に、同じ木簡に書かれていた「大豆(ダイズ)」ですが、これも立派に生薬なのです。もちろん、皆さんご存知のマメ科のダイズで、食用にするの
 と同じ豆の部分を使います。薬効は、抗酸化、免疫増強となっていますが、詳しいことは分かりません。(^_^;)


大豆

 同じ木簡の最後の部分「塩无」が何であるか確定出来るまでいっていません。「鳶尾(エンビ)」という生薬はあるのですが、「无」の字は「ム」または「ブ」としか読めないので、まだ候補程度です。

 「大豆」が出てきたので、同じく食用になる「ショウバク」というのをご紹介しておきましょう。
 木簡には「少白五十□」(□は欠字です)と書かれていますが、この「少白」は「ショウバク」つまり「小麦(ショウバク)」のことだと思います。
 神農本草経という漢方薬のバイブルのような書に因れば「養心安神薬」という分類に入る、保健薬です。慢性の下痢に用いる養臓湯、四神丸などという漢方薬に配合されていて、嘔吐や食欲不振等にも良いとか。
 ネコは子供の頃からパンが好きで、特に風邪で熱など出した時、おかゆは食べられないのですが、トーストなら食べられます...って、関係ないか?(^_^;)


小麦

 次は生薬の定番で「当帰(トウキ)」です。現在では、セリ科シシウド属の「トウキ」という植物の根を用います。本州中北部の山地に生える多年草なので、山歩きをする方は目にする機会があるかもしれません。


トウキ

 ちなみに、属名の「シシウド」というのは「ウド」に似ていて大型なので猪だったら食べるだろうということで付けられた名前ですが、「ウド」はウコギ科ですから、全く違う植物です。
 ところで、漢方の「当帰」は、本来は中国原産の「カラトウキ」で別種です。現在は 国産の「トウキ」も使われていますが、木簡に書かれていたのは、この「カラトウキ」の方だったのかもしれませんね。薬効はどちらも同じで、婦人病の薬として用いられます。

 続きなので、先ほど出てきた「ウド」について、先に書いておきます。


ウド

 「ウド」はウコギ科タラノキ属の多年草で、草原や明るい谷間に群生します。栽培もされていて、若芽や茎は食用になりますが、生薬として用いるのは、この根茎です。ただ、生薬名は「独活(ドッカツ)」ではなく「九眼独活」です。

 木簡には「獨活十斤」と書かれているのですが、ではこの、「独活(ドッカツ)」は?
 実は、セリ科シシウド属の「シシウド」が生薬の「ドッカツ」なのです。
 ややこしい!(x。x)゜゜゜
 「独活(ドッカツ)」も使用するのは根で、薬効は、どちらも発汗、鎮痛、麻酔作用と同じです。
 咲読笑いネコバージョンの1回目はここまで...延々と続く?(^_^;) (笑いネコ)



【2】  (09.3.27.発行 Vol.47に掲載)

 最近にわかに人気が出た言葉に「薬膳(やくぜん)」があります。平たく言えば、薬効のある物が入った食べ物の事で、この言葉は1980年の中国のあるレストランで使われ出したのが始まりと言われています。意外と新しい言葉です。しかし、薬効のある物を食べると言う行為自体は古く、中国の周時代(BC1.000~BC256)の「周礼」と言う本の中に、皇帝のための宮廷医を「食医」と呼び、その「食医」の大切な仕事は栄養管理で、食材を組み合わせてメニューを考え、食事療法での治療をしたとされます。病気になれば薬をすぐに処方する今の西洋医学とは違い、病気の根本的理由(どうして病気になったのか)を探り、日常の食事を正す事で人間の体の自然治癒力を高め、病気の原因から改善させる方法をとっていました。

 病気が症状として現れていない状態を<未病(みびょう)>と言いますが、未病の間に薬効のある物が入った食事で体内のバランスを整えて、病気にならないようにするのが目的で、病気になったからと言って薬膳で病気を治すのではないと言う事を先に述べさせて頂きます。

 って、何が言いたいのか・・・要するに、「毎日三度の食事の中に、体に良い食べ物を上手く取り入れて行けたら最高じゃないか」と言いたいわけです。(笑)難しい知識の追求ではなく、美味しさの追求。美味しくなければ、どんなに体に良くても続かないと言うのが私の持論です。そんなこだわりを持ちながら、笑いネコさんと同じ植物を今度は、万葉時代から現代までの利用法やこぼれ話を探りながら書いて行きたいと思います。笑いネコさんが書かれた植物と同じ順番に書いて行きますので、照らし合わせてご覧頂けたら幸いです。

[1]・・・丁字(チョウジ)
 お料理が好きな方なら<クローブ>と言った方がピンと来て頂けるかと思いますが、お花の蕾を乾燥させた物で、独特な甘い香りです。息子に表現させると「殺虫剤に甘さを加えたような臭い」だそうです。(笑)これは当たらずとも遠からずで、実は、ゴキブリはこの臭いが大嫌い!お茶パックにクローブを入れて、ゴキブリが出そうなシンク下や物置などに置くと寄り付かないと言われています。笑いネコさんが書いておられたように、正倉院の宝物の中に入っていた丁子は、勿論装飾の意味もあったと思いますが、それと同時に防虫・消臭の役割も果たしていたのではないでしょうか。

 また、オレンジなど柑橘類に刺して乾燥させた物を<ポマンダー>と言い、部屋やタンスなどにぶら下げておけば、消臭・防虫にもなります。ヨーロッパでは、現在でも手作りのポマンダーをプレゼントしあう習慣が残っているんですよ。

 香りだけを利用する場合はそれで良いのですが、お料理に使う時はお約束
 があります。2歳以下のお子様、分娩時以外の妊産婦さんは口にしないようにして下さい。クローブだけではなく、ハーブと呼ばれる植物の中には、結構お子様や妊産婦さんは口にしない方が良い物がありますので、注意が必要です。(刺激が強い場合や、陣痛を促進してしまう成分が含まれる事がある)


丁子

[2]・・・大豆(ダイズ)
 木簡には色々な豆の文字が見られます。大豆、白大豆、小豆、大角豆(ささげ)。とりわけ大豆は弥生時代後期にはすでに伝来していて、万葉時代には醤(ひしお)や末醤(みそ)などの原料に利用していました。用途は今とそんなに違いはありません。面白い事に、煎(い)り大豆、熬(いり)大豆、生大豆と言う記述があり興味をそそられました。『煎り大豆』は今で言う煎った大豆ではなく汁気が無くなるまで煮た煮豆の事です。『熬(いり)大豆』は大豆を乾煎した物で、これをすり潰すと黄な粉になります。『生大豆』は「把」と言う数量表記をなされているので、枝に付いたままの大豆、いわゆる枝豆のことだろうと言われています。私・・・枝豆と大豆は別物だとずっと思っていました。枝豆の収穫が少し遅れると、豆は苦味を増します。落胆して全ての豆を捨ててしまい、後で「そのまま放置すれば大豆になったのに」と聞き、なんとも残念で名実ともに苦い経験をしたことがあります。(笑)

 豆を煮るのは時間が掛かるし面倒・・・良くその話は耳にします。私は一度に沢山下茹で(味付けしないで煮るだけ)して、冷めてから小袋に小分けして冷凍しておきます。茹でてあるからシチューやカレーなどにさっと入れられて便利です。昔は魔法瓶を利用して豆の下茹でをしていましたが、魔法瓶に取って代わった最近の電子ポットは繊細な作りだったりするので、違う使い方をすると壊れる事がありますので気をつけて下さい。(笑)

[3]・・・少白(ショウバク)
 笑いネコさんと同じで、私もこれは<小麦>として書かせて頂きます。

 万葉時代、稲の収穫は天候に非常に左右されるとして朝廷は、麦や粟などの畑作穀物との併作を奨励しました。普通小麦は、冬に種を蒔き初夏に収穫をするので、真夏の干ばつや台風などの被害を受けにくいので奨励されたようです。

 推古十八年(610)三月、高麗の僧曇徴(どんちょう)が碾磑(みずうす)を伝え、水力による製粉法が取り入れられたと同時に、小麦を製粉したものから<餅>を作る処方も伝来している事がわかっています。今では餅と言えばもち米を蒸して搗いていますが、当時は小麦粉で作った餅も作られていたようです。しかし、米を搗いて作った餅よりもネバリが少ないので、餅と言うよりも団子に近かったかも知れません。韓国の餅は米の粉で作りますが、これもどちらかと言うと団子に近い食感を受けます。汁物に入れても融けないので鍋物には重宝します。

 オオムギは、加知加太(かちかた)または布止牟岐(ふとむぎ)と呼ばれ、コムギはオオムギよりも約一世紀遅れて(四世紀から五世紀の間)伝来しているのに古牟岐(こむぎ)と呼ばれました。オオムギは主に粒のまま、コムギは粉にして餅や煎餅などに加工されました。現在使われているオオムギとコムギの名前の由来は、植物の大きさの比較ではなく、優劣の比較。つまり、殻などを簡単に取り除けて、飯や粥に使えたオオムギを上質と考え<大>、コムギは品質の劣るものとして<小>をつけたとされます。これと同じ意味でつけられたのが、大豆・小豆です。


少白

[4]・・・当帰(トウキ)
 これはね、そのまま現代に利用するって事は、滅多にないんです。薬膳料理には出る事があるかな?程度ですね。美味しい?と問われれば、返答に困る。(笑)

 葉や茎に芳香があるので、刻んでガーゼなどに包み浴槽にいれて<浴湯薬>に利用しちゃいましょ。鎮静・冷え性・しもやけ・婦人病に効果があるとされます。

[5]・・・獨活(ドッカツ)
 これは美味しい!!(笑)春になると、お隣から「ウド堀りに行くぞ!」とお誘いを受け、山に出向きます。お隣が育てておられるウドは、日光に当たらないよう芽が出るとすぐに籾殻を山のように積み重ねます(軟化栽培)。それでもウドは太陽を求めて籾殻を掻き分けるように伸び、やがて日の目を見ます。そうなると人間は籾殻をせっせと取り除き、光合成していない白いウドの茎元を土の間際で刈り取り収穫とします。籾殻で埋まっていた部分は軟化しているので美味しく食べられます。山に自生しているウドは、土から上はしっかり緑色をしていて、あまり大きくないうちに刈り取って、柔らかな緑の部分だけを食べます。

 皮を剥き、薄切りにして天ぷらにすると、非常に美味しいです。お吸い物に入れると良い香りが漂いいっぺんに高級品に変化。(笑)皮は捨ててはいけません。これは細切りにして、ゴマ油と醤油でキンピラにすると、晩酌のツマミに最高です。


獨活

 ウドの大木・・・ウドは日に当たると堅くなり、一気に木のように大きく育ってしまいます。そうなるととてもじゃないが堅くて食べられません。「体ばかりデカくて役に立たない」ことをウドの大木と呼ぶのはこう言うワケがあったんですね。

 と、5つの植物について書かせて頂きました。書き出せば果てしなく・・・ではありませんが、あれもこれもとついつい思ってしまいます。これらの植物については、当日もう少し突っ込んだ話しをさせて頂こうと思っていますので、どうぞお楽しみに~。
                                        (P‐saphire)



【3】   (09.3.27.発行 Vol.47に掲載)

 第14回定例会の飛鳥咲読笑いネコバージョンの2回目です。ネコバージョンの余りの長さに、増刊号が出ることになってしまいました。(笑)

 定番生薬の一つ「センキュウ」です。原産地は中国で、古くから日本で薬用植物として栽培されています。使用するのは根茎で、茹でて乾燥して用います。生薬としての効能は、活血、強壮、鎮痛で、頭痛、月経不順などの婦人病の薬として用います。
 植物名は「センキュウ」で、セリ科ハマゼリ属です。セロリに似た香気があり花は咲きますが日本では結実しません。見た目が似ている植物はありますが、日本には自生していないので、野草摘みの感覚で採集するのは危険です。
 木簡に書かれている「芎窮」が本来の名前で、中国四川省の「芎窮」が優秀なので、「四川芎窮」を略して「川芎」となったのだそうです。
これに近いハーブには、「ラビッジ」というのがあって、ヨーロッパのハーブガーデンでは定番だそうです。

 次は「烏梅(ウバイ)」です。これは、木簡では「烏□」(□は欠字)となっていまして、実は、該当するのは「烏梅」の他に、「烏薬(ウヤク)」「烏樟(ウショウ)」「烏頭(ウズ)」などあるのですが、Pさんの食べ物ネタにも合うように、ここは「烏梅」にしてみました。って、勝手に決めて良いんだろうか?(^_^;)植物的には簡単です。バラ科のウメです。使うのは未成熟果実ですから、いわゆる青梅。これを薫蒸したものが「烏梅」...薫蒸したら黒くなるから、と簡単なネーミング♪
 薬効は、鎮咳、下痢止め、駆虫だそうです。

 次に二つ続けて花の綺麗な生薬植物をご紹介しましょう。
 先ずは「クバク」です。木簡には第2水準でも出てこないような文字が書かれています。「クバク」の「ク」自体が第2水準(コンピューターで使用される漢字のJIS規格)で「隹の上に日が二つ載ったもの」ですが、木簡にはこれに更に「木偏」が付いています。「バク」は「麦」です。で、これは何かというと、ナデシコ科ナデシコ属の「カワラナデシコ」または「セキチク」です。開花時の地上部を干して用いるそうで...何か、もったいない気がしますが。(笑)
 利尿作用などがあり、尿路疾患、膀胱炎とか尿路結石の治療に使われます。

 開花したものを用いる生薬は、そんなに多くありません。ほとんどが果実になってから、あるいは熟して種子が出来てから使います。余談ですが、変わり種は、今の時期咲き始めている「コブシ」でつぼみの堅いうちに摘み取って生薬とします。「モクレン」も同様で、咲いてしまったら効果はないのだそうです。生薬名は「辛夷(シンイ)」といいます。


コブシの蕾

 次は「桔梗(キキョウ)」で、これはそのままキキョウ科キキョウ属の「キキョウ」です。使うのはこの根で、「人参」の根に似ています。薬効は去痰、鎮咳、消炎。元々は山野の草地に生育していたのですが、現在は自生種はほぼ絶滅しています。

 さて、ちょこっと名前が出てきたところで「人参」です。八百屋さんに売ってる人参ではありません。ってことくらい、ご存知でしょうか?(笑)ウコギ科トチバニンジン属の「オタネニンジン」というのが、生薬の「人参」で、俗に「朝鮮人参」と言われているものです。もちろん使うのは根です。「補薬の王」と言われるくらい、新陳代謝を盛んにし、中枢神経を興奮させ、免疫機能を増強する、スーパー生薬です。ちなみに、効果が強いので、健康な人は摂りすぎないように、という注意があります。

 次に登場するのは「射干(ヤカン)」です。木簡には「夜干十斤」と書かれています。おそらく「射」という字は、当時も「イ」と読んだのではないかと思うので、「ヤカン」という生薬名を伝えるには、「夜干」の方が良かったかもしれません。「射干」はアヤメ科ヒオウギ属の「ヒオウギ」で、この根茎を使います。薬効は解熱、去痰で、「射干麻黄湯」という漢方薬は、この「射干」「麻黄」に「生姜」「半夏」を配合したもので、風邪薬です。「ヒオウギ」の名は、葉が「檜扇」の形に広がることから付いた名前で、日の当たる草地に生える多年草ですが、現在では観賞用などに栽培されているものがほとんどで、自生種は希になってしまいました。夏の終わり頃に淡いオレンジ色の花を付け、秋に果実が熟すと真っ黒の種子が出てきます。この種子が歌に詠まれている「ぬばたま」とか「うばたま」なのですが、この話はPさんにお任せすることにしましょう。


ヒオウギ

 前回紹介した、漢方薬の配合が書かれているのではないかとネコが考えている木簡に登場する生薬をもう一つ見てみましょう。「防風」です。これは、他にも「出雲臣首万□」「出雲臣石寸」「出雲臣知万呂」という人名と共に書かれていて、その後に「防風十斤十二□」となっています。この人達が「防風」を栽培していて、藤原京送ったのでしょうか?
 植物としては、セリ科ボウフウ属「ボウフウ」なのですが、「ボウフウ」は中国原産で日本に自生種はありません。「昔中国から渡ってきたが今では絶滅して残っていない」と牧野図鑑にはありますが、現在では再度中国から来た「ボウフウ」が栽培されていて、生薬の原料として使われています。薬効は発汗、鎮痛作用などで、抗アレルギー作用があるとされ、皮膚疾患に使われます。
 田村薬草園ではカワラボウフウ属の「ボタンボウフウ」が栽培されています。
 これは、若い葉を摘んで食用にするので食用防風の異名があります。また、「ボウフウ」が絶滅してしまっていた時期には、代用品として「防風」の原料に使われていたということです。


ボタンボウフウ

  今回の最後に「五加皮」というのをとりあげてみましょう。木簡では、それらしきものが3種類出てきます。「■(草冠に五という字)茄十斤」と「五茄□」、「□□皮十斤」です。
 ウコギ科ウコギ属の落葉低木「ウコギ」で「根皮」を生薬として使います。生薬で言う「五加」の中国読みが「ウコ」で、これに日本語の「木」が付いて「ウコギ」です。もちろん日本原産種ではなく、中国から古い時代に、多分薬用植物として渡ってきたもで、現在では生垣などに使われているのが見られる他、野生化したものもあるそうです。今は「エゾウコギ」という別種を栽培して、「五加皮」を採っているようで、抗ウィルス作用や、免疫賦活作用、血糖値を下げる作用などがあります。また、子供の骨や筋肉の発育不良を治療するのにも用いるとか。

 今回の咲読ネコバージョンはいかがでしたか?そろそろ「生薬博士」になれそうですか?(笑)  (笑いネコ)



【4】  (09.4.3.発行 Vol.48に掲載)

 笑いネコさんからのバトンタッチで、第二回目の咲読を書かせて頂きます。植物・・・特に生薬は難しい!!と、思っていませんか?チョット肩の力を抜いて、四方山話と思って読んで頂ければ幸いです。

[6]・・・センキュウ
 セリ科なので、茎葉は良い香りがします。が、普通のセリと違ってやや苦味があるらしく、鎮静薬として飲む事はあっても、普段にこれを食べると言うのは聞いた事がありません。しかし、香り、特に根茎はその香りが強いので、それを利用して<浴湯薬>として使うことがあるそうです。入浴効果を高めて身体を芯からあたため、冷え症、腰痛、神経痛、リウマチなどに効果的で、最近は<薬湯>と言う名前で某メーカーから粉末の浴溶剤で売られています。センキュウのみご入用の方は漢方薬局でお買い求めになられると良いのですが、結構お高いので普段に利用するのは大変かも知れません。昔の貴族なら惜しげもなく中国から取り寄せたものを利用したでしょうが・・・。(笑)


センキュウ

[7]・・・烏梅(ウバイ)

 笑いネコさんからあえて「Pに合わす!」と、<烏梅>にして下さったので、こりゃ~なんとかせねばとあれこれ考えました。が、これがまた難問。ってか、普段こんなん口にしませんやん。(笑)と言うことで、ちょっと話は反れますが、中国や台湾には「烏梅汁(ウーメイジー)」や「酸梅湯(ソワンメイタン)」と呼ばれる烏梅を使ったジュースがあります。烏梅汁は文字通り烏梅を煮出したもので、酸梅湯は、烏梅、陳皮、サンザシ、甘草を合わせて煎じたもの。何れもやや苦味があるらしい。あちらではとてもメジャーで、空港でも飲めるそうですが、日本では見たことが無いと言う事は・・・あまり美味しくないのかな?日本では薬として利用する以外は、染色(特に紅染め)の媒染剤(ばんせんざい)として利用しているぐらいでしょう。

 画像は烏梅の作り方を簡単に描きました。ご参考にして下さい。


[8]・・・クバク
 ナデシコは中国から入ってきた物を「唐撫子」日本に自生していた物を「河原撫子(大和撫子)」と区別をしました。ナデシコは別名「常夏」と言います。それはひと夏中庭に咲いているからだと言われています。万葉時代、すでにとても愛された花で、万葉集には26首のナデシコの歌が残されています。その多くは「あなたが(庭の)ナデシコだったらなぁ~(毎日見ることが出来るのに)」と、恋人をナデシコに見立てて詠まれていますので、一般的に身近に咲いていた花だったと思われます。可憐な花なので、あえて花を食べようなんて思わないのですが、茹でてから冷水で晒してアク抜きをすれば食べられます。しかし、これも注意があって、妊婦は堕胎の恐れがあるので絶対に食べないようにして下さい。

[9]・・・桔梗(キキョウ)

  春から初夏に若芽や茎の先の柔らかいところを摘み、茹でて水に晒してアク抜きをしてから、ごま和え、酢みそ和えに。秋になると根を掘り起こして利用しますが、根は有害成分(サポニン)を含むので割ってしばらく水に晒してからでないと中毒を起こします。

 日本では秋の七草として有名で、観賞用にすることの方が多いのですが、韓国ではキキョウのことを「トラジ」と言って、一般的に食材として利用されています。トラジキムチは、トラジ(キキョウの根)を、唐辛子、にんにく、水飴、砂糖、いりこ、食塩などを混ぜた<ヤンニョム(薬念)>と言う合わせ調味料で漬け込みます。また生菜(センチェ)やナムルにしても食べられています。高麗人参と同じサポニンを大量に含み、見た目にも良く似ているので、江戸時代は高麗人参の代用品として売られていました。

[10]・・・人参(ニンジン)
 これね、西洋人参と違って苦味が強いんです。「高麗人参茶」なる物を飲みましたが、やはり苦味は消えていなくて大量に飲めるものではありません。スッキリとした苦味ではありますが、お代わりを所望するほどでは・・・。韓国の人から「人参酒」と言う高麗人参を焼酎で漬け込んだ物を頂いた折、「お酒を飲み干した後の人参は、細切りにして天ぷらで召し上がって下さい」と教えられ実践してみましたが、これもとても苦くて食べられた物ではありませんでした。苦味に対する寛容さにはお国柄も関係するのだろうか?と思ったくらいです。(笑)

 「御種人参(オタネニンジン)」と言われるようになったのは、八代将軍徳川吉宗がこの人参を対馬藩に命じて試植させ、その後各地の大名に種を分け栽培を奨励したことに由来すると伝えられています。意外と近年なんです
 ね。


御種人参

[11]・・・射干(ヤカン)
 射干(別名ヒオウギ)は魔よけの意味があると言われ、祇園祭にはなくてはならない花とされています。が、笑いネコさんからこの植物の実<ぬばたま>をふられたのでそのお話しを簡単に。(笑)

 ぬばたまは「射干玉(ぬばたま)」または「烏羽玉(うばたま)」と書くヒオウギの実。真っ黒で美しい艶があるので、黒に関連のある「夜・夕・髪」などにかかる枕詞(まくらことば)として用いられました。柿本朝臣人麻呂が、泊瀬部皇女・忍坂部皇子に献上した歌が万葉集に残されています。その中に<ぬばたま>が夜を導く枕詞として入れられていますのでご紹介いたします。長いです。(笑)

 飛ぶ鳥の 明日香の川の 上つ瀬に 生(お)ふる玉藻は 下つ瀬に 流れ触らばふ 玉藻なす か寄りかく寄り 靡(なび)かひし 嬬(つま)の命(みこと)の たたなづく 柔肌すらを 剣太刀 身に添へ寝ねば ぬばたまの 夜床も荒るらむ(荒れなむ) そこ故に 慰めかねて けだしくも 逢ふやと思ひて(君も逢ふやと) 玉垂の 越智の大野の 朝露に 玉藻はひづち 夕霧に 衣は濡れて 草枕 旅寝かもする 逢はぬ君故


ヤカン

[12]・・・防風(ボウフウ)
 独特の香りと辛味を持つ植物で、新芽を軽く茹でて、酢味噌和えにしたり、生のままお刺身のツマに利用されますので、知らず知らずのうちに口にしておられる(見ておられる)事もあるかも知れませんね。日本では中国原産のボウフウはすでに絶滅して残っていないと言う事を笑いネコさんが書いておられますが、近縁種のハマボウフウが浜辺で自生していて、料理用として市販されているボウフウのほとんどはこのハマボウフウだそうです。

 新芽と花芽は天ぷらにすると爽やかな苦味と香りが食欲をそそります。茎を酢味噌で食べても美味しく頂けます。とても育てやすい丈夫な植物なので、庭の砂地に植えて育てても良いと思います。(笑)

 画像は、イブキボウフウ と ハマボウフウ を描きました。


[13]・・・五皮加(ウコギ)
 「ウコギと言えば米沢」と言われるくらい山形県米沢市の名産で、米沢藩九代藩主「上杉鷹山公」がウコギの垣根を奨励し飢饉に備えたとされ、今でも町中のあちらこちらで見られます。「ウコギの一等美味しい食べ方は?」と聞くと「ウコギ飯」と返答があるくらいにご飯に混ぜると美味しいそうです。さっと茹でたウコギをみじん切りにし、塩を振りかけたご飯とまぜるとウコギ飯の出来上がり~ですが、炊きたてのご飯と混ぜてしまうと、せっかくのウコギの緑が変色してしまうので、やや冷めたご飯に混ぜるのがコツなのだとか。ウコギの新芽はタラの芽に良く似ていて、同じように天ぷらにしても美味しく食べられます。ホロッと苦くて春の味。木はトゲがあり泥棒避けに、新芽は食用、根は薬用と、何役も兼ねられまた栄養価も高く、ホウレン草の5倍のカルシウム、3倍のビタミンCに加え、抗酸化性を有するポリフェノールも多量に含んでいるって言うからすごい!!生垣を造るなら是非ウコギで。(笑)

 画像は、ウコギ科で良く似た植物の比較です。ウコギ、コシアブラ、タラノキ。どちらも同じように食べられます。


 ざざっと簡単に書かせて頂きました。農作物が沢山収穫出来るように化学肥料や農薬を使っている現在とは違い、飛鳥時代の生薬(草木)は、もっと味が濃くて灰汁(アク)も強かったのではないかと想像しています。そして、特殊な取り入れ方ではなく、もっと身近で今よりもずっと上手く利用していたのではないか・・・など色々思いを馳せつつ、次回はいよいよ最終回です。どんなお話しをさせて頂こうかと、今からドキドキ土器?・・・どうぞお楽しみに~(*^^*) (P‐saphire)



【5】  (09.4.17.発行 Vol.49に掲載)

 第14回定例会に向けての「飛鳥咲読笑いネコバージョン」もこれが最終回です。
 先日、田村薬草園に下見に行ってきました。その折、ネコが参考にした文献には無かった生薬が、「木簡出土品」という名札を付けて植えられているのに気付きました。そこで、奈良文化財研究所の「木簡広場」のデータベースで調べ直してみたところ、奈良県教育委員会の発掘調査でかなりの生薬木簡が出土していることが解りました。その数20数種類!!しかも、藤原宮で5377点の木簡がデータベースに載っている内(調査は色々な研究期間によるもので、発表された文献も様々です)、ネコがチェック出来たのは僅か450点ほどなのです。5377点すべてをチェックしたら、いったいどれくらい出てくるんでしょう?とてもそのすべてを調べてお話しすることはできません。(^_^;)

 さて、今回のトップバッターは、皆さんお馴染みの葛根湯の「葛根(カッコン)」です。
マメ科クズ属のツル性多年草「クズ」で、いたる所の空き地などに生えています。生命力が強く樹木に覆い被さって、その生育を邪魔することもあり、邪魔者扱いされることもあるのですが、よく見ると花はなかなか美しいですし、その根から採ったデンプンは葛粉として利用されます。生薬の「葛根」も文字通り「葛の根」です。「クズ」という名は、上質の葛粉の産地である吉野の国栖(くず)に由来するという説もありますが、はっきり分かりません。
 薬効は、発汗、鎮痛、解熱作用で、葛根湯の主成分です。

 木簡に「非子」と「■(木偏に非)子」というのがあります。
 これについては、二つ考えられます。一つは「菱の実」。ヒシ科ヒシ属の1年草で池やため池に群生する浮葉植物です。名前の由来は、実が堅いので「緊(ひし)ぐ」からきたとも、扁平な実の形から「拉(ひし)ぐ」ということからきたとも言われます。また葉や果実が菱形だからという説もあります。この実を乾燥させると薬用に用いることが出来るのです。
 もう一つ「榧子」と書く「ヒシ」というのがあるのですが、これはイチイ科カヤノキ属のカヤの実で虫下しとして使われるようです。ただ、本来は「榧」と書くと、中国の別種なのだそうです。

カヤ

 次に木簡に「知苺」と書かれた「地母(チモ)」という生薬をご紹介します。
 これは、ユリ科の「ハナスゲ」という植物の根茎から採る生薬です。「ハナスゲ」は中国北部原産で、日本には自生種はありません。鎮咳、去痰、解熱作用などがあり、かなり古くから薬用として栽培されているようです。名前の由来は「スゲ」に似ていてそれより美しい花を付けるから、だそうです。


ハナスゲ

 花の美しい生薬に「地黄(ジオウ)」があります。ゴマノハグサ科ジオウ属の「アカヤジオウ」または「カイケイジオウ」の根を用いるもので、そのまま乾燥したものを「生地黄(ショウジオウ)」、蒸してから乾燥したものを「熟地黄(ジュクジオウ)」といい、補血、強壮、解熱薬として、同じように用いるようです。木簡に書かれているのは「生地黄」と「□地黄」の2種類で、□に「熟」の字が入るのか、「生」の字が入るのか分かりません。


アカヤジオウ

 さて、お次は「牛膝(ゴシツ)」です。これは、ヒユ科イノコズチ属の「イノコズチ」です。そうです、何処の空き地にでも生えていて、犬の散歩などの時に衣服や犬の毛に果実がくっついて、取るのに大変な思いをする、あの「雑草」君です。(笑)
 嫌われ者の「イノコズチ」もその根から、利尿作用や抗アレルギー作用がある生薬が採れるんですよ!!

 続けてもう一つ、何処にでも生えている生薬を♪
 「車前子(シャゼンシ)」です。1回目でご紹介した漢方薬の配合を書いてあるのではないかとネコが考えている木簡に出てくる生薬ですが、これの正体はオオバコ科オオバコ属の「オオバコ」なのです。この種子を「車前子」と言い、消炎、利尿、止瀉薬として、夏季の下痢、膀胱炎などの治療に使われてきました。また、植物全体を「車前草」といい、これも生薬です。

 「車前子」の出てくる木簡に「桃四両」と書かれています。この他に「桃人七斤」というのもあるので、この「桃」も「桃仁(トウニン)」とう生薬だと思われます。もちろんこれは、バラ科のモモの種子のことです。前回出てきた「烏梅」の梅もそうですが、桃もかなり古く中国から渡来したものです。桃を食べた時に出てくる「種」を割って、更にその中にある「種子」を取り出して天日干しすると、この「桃仁」が出来ます。「種」と「種子」と書きましたが、植物学的には正しくありません。ややこしいので、通称で書きました。坑炎症、血液循環改善等の薬効があります。


モモ

 「杜仲(トチュウ)」は杜仲茶というのでお馴染みですが、トチュウ科トチュウ属の「トチュウ」という樹木で生薬としては樹皮を、肝臓疾患などに用います。市販されている「杜仲茶」は葉っぱを使うのですが、薬効としては樹皮より少ないそうです。「車前子」と同じ木簡に「杜中」と書かれているほか、「杜仲十斤」と書かれた木簡があります。


トチュウ

 やはり「車前子」と同じ木簡に書かれている「桂心(ケイシン)」は、クスノキ科クスノキ属のシナニッケイの「根皮」、つまり根っこの皮です。薬効は、発汗、鎮痛、解熱等で、「樹皮・枝皮」を用いる場合もあり、「桂枝」「桂皮」とも言われます。植物としては、中国原産で享保年間に輸入され栽培されるようになったそうなので、木簡の書かれた頃は「根皮」「樹皮」の状態で輸入されていたものと思われます。これも、正倉院御物にあるようです。日本に自生する「ヤブニッケイ」は藪に生えるニッケイという意味で付いた名で、同じクスノキ属ですが、香はあまり無いそうです。ちなみに、ハーブの「シナモン」は「シナニッケイ」の近縁種でインドやマレーシアが原産の「セイロンニッケイ」という品種から採ります。こちらは「樹皮」の他に「枝」を用います。最近ではこの「セイロンニッケイ」も「桂皮」として使われているようです。


シナニッケイ

 「桂心」と同じ木簡に書かれている「白■(草冠に止)」というのをご紹介して、この咲読の最後とします。
 生薬名は「ビャクシ」といいセリ科シシウド属の「ヨロイグサ」の根を用います。ヨーロッパ産のアンゼリカまたはアンジェリカという砂糖漬けにしてケーキなどに用いるものと同じ種類の植物で、薬効は、鎮痛作用、麻酔作用、去痰作用です。また、血行を良くしたり、化膿症の治癒を促したりする作用もあるそうです。


ヨロイグサ

 さて、これで笑いネコ担当の咲読は終わります。少しは生薬になじんで頂けたでしょうか?それとも、ますます嫌いになったとか...(^_^;)  (笑いネコ)



【6】  (09.5.1.発行 Vol.50に掲載)

 いよいよ第14回両槻会「野守は見ずや 名柄の遊獵(みかり)」の今回が最後の咲読となりました。生薬や植物の名前で頭が混乱していませんか?もう暫くお付き合い下さいね。では、ボツボツと話を進めましょう♪

[14]・・・葛根

 食用としては葛切りや葛餅などがあり、くず粉をお湯に溶かした葛湯は和菓子の材料として有名です。また食用以外にも蔓を加工して籠などに利用されます。私は年に一度ぐらいの割合で、ゴマ豆腐を自分で作りますが、その大切なアイテムの一つがこの葛の根から採取される葛粉です。普通<葛粉>と表記されているものの大半は馬鈴薯から作られていますが、葛から採取されたものは<本葛粉>と書いて区別されています。独特のねばりとツルリとした喉越しは、本葛粉でなければと、私なりのこだわりを持っています。(笑)

<ゴマ豆腐>
 (材料)
  ごま・・・1/2カップ
  本葛粉・・1/2カップ
  水・・・・3カップ半
  塩・・・・少々

 1.ゴマをフライパンで乾煎りしてからすり鉢で油が出るまでよ~く擂る。
 2.分量のお水を少しずつ加えながら、ただひたすら擂る。
 3.別容器に葛粉を入れて、2を少量加えて良く練り、溶けたのを確認したら残りを入れてかき混ぜたら一度漉して鍋に移す。
 4.塩を少々入れて中火でじっくり練り、透明になったら型に流しいれて冷やし固める。
 5.固まったら取り出して切り、器に盛って、食べる時にワサビ醤油を添えて。

<その他>
 ☆若芽を採取して、皮を爪で剥いてサッと茹でて水に晒し、炒め物、和え物に。天ぷらにする時は生のまま皮を剥かずに調理する。

 ☆花はサッと茹でて酢の物にすると、とても色が綺麗です。

 ☆大きな葉は、そのまま天ぷらにしても食べられます。また、天日で干してから煎じてお茶として飲むと蕁麻疹など、お肌のトラブルに効き目があります。

[15]・・・ヒシ


 菱の実は昔からガン(胃ガン・子宮ガン)、胃病、婦人病、便秘、胎毒、酒毒などに効果があるとして、菱の実を日干しして煎じて飲む風習がありました。現代薬理学の研究では、菱の実はガン細胞の増殖を抑制するのに効果があることが発見されています。本草網目(中国・明時代)には「菱の実の粉で作った粥は胃腸を良くし、内在する熱を解き、中高年が常食とすると胃および脾臓を健康にして足腰を強くし、体内より元気が湧き出るようになる」とすでに書かれています。

  君がため 浮沼の池の 菱採ると 我が染し袖 濡れにけるかも 
                        柿本人麻呂(万葉集 7-1249)

 と、万葉集にも登場。長屋王家にも武蔵の国からヒシが届けられていると、出土した木簡が物語っています。食べ方は、栗のように蒸してから皮を剥いて食べるとホクホクと甘い味がします。古代食では不足しがちなビタミンB1が白米の4倍、カルシウムは7倍もあり、当時としては貴重な栄養源だったようです。


[16]・・・地母(又は、知母)

 知母(チモ)の名前にまつわる素敵なお話しをさせて頂きます。


 中国のあるお婆さんは、山から薬草を採って来ては、貧しい人たちに無償で分け与えていました。年老いて、山に行けなくなったお婆さんは、誰かに薬草を伝えておきたいと思いましたが、どの人も薬草でお金儲けをしようと思う人ばかりで、お婆さんは伝えられずにいました。寒い冬の日、山に行けなくなったお婆さんは食べるものもなくなり、ある木こりの家の前に行き倒れてしまいました。木こり夫婦はお婆さんを家の中に入れて、手厚く看病をし、その後もずっとお婆さんと一緒に、まるで親子のように暮らしました。
三年後のある日、お婆さんがどうしても山に行きたいと言うので、木こりはお婆さんを背負って山を登ると、白地に紫の筋のある花をつけた細い葉の野草を指差し、その黄褐色の根が薬草であることを教えました。お婆さんは「私は貧しい人にも優しく接してくれる人にこの薬草を教えてやりたかった。この薬草を知母となずけ、あなたにだけ教えよう。」と言いました。その後木こりは山からこの知母を採って来ては、貧しい人たちの役に立てたそうです。

[17]・・・地黄

 日本には、奈良時代に薬用の目的で持ち込まれました。古名をサホヒメ(佐保姫)と言います。佐保姫は<春の女神>で、奈良の佐保山の祭神で、春霞は姫が織り出すものとされていました。ジオウがなぜサホヒメなのかと調べましたら、「花が綺麗だから」と書かれていました。

 民間療法では、切り傷に生の根茎のしぼり汁をつけると止血効果があるといわれています。ジオウは食べ物としては食べられていないみたいです。まぁ、根っこですしねぇ~。(笑)

[18]・・・牛膝

 道端の厄介者ですが、梅雨時の若い葉や穂を採って天ぷらにしたり、和え物、バター炒めにすると意外に美味しい。薬用としては、秋から冬にかけて地上部が枯れたころに根を掘り採り、水洗いして天日で乾燥させます。これを生薬で牛膝(ごしつ)といいます。煎じて飲むと、神経痛、リューマチに効くとして有名。

 本草和名(918年)には、為乃久都知(いのくづち)、都奈岐久佐(つなぎぐさ)という記述があります。

[19]・・・車前子

 若葉の筋に包丁で切り目を入れ(筋に切り目を入れないと、膨張して油が飛び散りますので危ないです。)生のまま天ぷらにします。また、塩を入れて茹でてからおひたしや和え物にします。

 面白い事に種子は、水を含むと約40倍にまでぐんと膨張します。まるで紙オムツのような感じで、近年はそれをダイエット食に利用しようと研究がなされています。


シャゼンシ

[20]・・・桃仁

 桃仁酒(とうにんしゅ)と言うのがあります。これも梅酒と同じ要領でホワイトリカーまたは蒸留酒(出来れば40度以上)とで漬け込むだけですが、お好みで氷砂糖を入れ、桃を食べた後の種を布で包んで金槌で叩いて割り、中のアーモンドのような仁を取り出して、水分を拭いてからその都度入れておけばOK!琥珀色になったら飲み頃です。一度に沢山食べない桃の場合、1個2個と、その都度漬け込んで行けば良いので、じっくり仁を増やしながら作って下さい。(笑)とても華やかな香りのお酒になります。まとめて漬け込みしたい場合は、仁を天日でしっかり干して保存して下さい。

 中国の月餅(ユエピン)にも入っている事があります。結構高級な物じゃないと入れられてないみたいですが・・・。(笑)

[21]・・・杜仲

 煎じるより、アルコールに漬け込んだ方がより一層効果が高まるといわれています。樹皮をはいだり、葉や枝を折ると、白銀色の糸を引く特徴があります。この成分はグッタペルカというゴム質で、固まると樹脂状になります。トチュウでは含有量が少ないために工業利用はされていませんが、絶縁材料や歯科用セメントになる成分です。

[22]・・・桂心

 世界最古のスパイスの1つといわれ紀元前4000年ごろからエジプトでミイラの防腐剤として使われています。日本へは飛鳥時代に遣唐使によって唐文化の一つとしてもたらされ、奈良時代には中国から輸入品が、貴族など上流階級の間で使用されていたようです。正倉院の薬帳にも「桂心」としてその名が見られます。しかし、それは薬として輸入されたに過ぎなくて、樹木として入ってきたのは江戸時代だと言われています。これもトチュウと同じで、煎じるより薬酒に用いてアルコール分で浸出することで、より一層効果が高まるといわれています

[23]・・・ビャクシ

  皮膚を潤し、かゆみを取り去り、色黒、イボをとることができてしっとりした肌になります。しかし、根にはフロクマリン誘導体のビャク-アンゲリシン、ビャク-アンゲリコールなどが含まれていて、このフロクマリン類は光感作効果をもっているので要注意!!このビャクシに限らず、柑橘系(特にレモン)なども光感作作用があるので、日中肌につけて紫外線に当たると、シミ、ソバカスの原因になります。夜に塗って寝た場合も、朝にはちゃんと精製水などで綺麗に洗ってからでないと、外に出ては行けません。却って悪影響がありますので気をつけて下さい。治療効果を高め、ハーブの副作用を抑えるには、蜂蜜、オイル、牛乳や黒砂糖などを一緒に使うと良いとされま
 す。


ビャクシ

 以上、木簡に書かれていた生薬は、今現在もしっかり研究利用されていて、人間が生活する上で無くてはならない物となっています。姿は変われど、効能は生きている。人間も草木のように大地に根を下ろすが如く、生きて行きたいものですね。さて、第14回両槻会「野守は見ずや 名柄の遊獵(みかり)」では、実際に育てられている薬草を見て歩きながら、見て・匂って・味わって・・・頂きたいと思います。 (P‐saphire)




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