両槻会(ふたつきかい)は、飛鳥が好きならどなたでも参加出来る隔月の定例会です。 手作りの講演会・勉強会・ウォーキングなどの企画満載です。参加者募集中♪



したっぱ学芸員による

展覧会裏話



A資料館 腰痛学芸員Nさん
(水神様先生)


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【1】  (11.4.29.発行 Vol.106に掲載)

 今年の春はキトラを展示しないのかな?お客様の声が聞こえてきそうな思いである。

 キトラ特別展は飛鳥資料館春期の恒例行事でしたが、今回の春期特別展は、古代の星空の考え方にスポットを当てた展覧会となっています。展示されているものを見ると、キトラ様はおいでにならず(本物のキトラ天文図は現在、接合/修復中。いつの日かは、飛鳥資料館でお目見えする日が来るでしょう)、展示遺物が少ない(実は星空に関わる物は少ない)、やたらとレプリカや複製品が多いような・・?パッと見の印象はこんなところでしょうか。

 関連した実物史料が少ないのはともかくとして、レプリカを借りるのは何故でしょうか?本物でいいじゃないか。レプリカを借りる(もしくはレプリカしか借りれない)理由は、
  1. 遺物が脆弱すぎて展示/輸送できない(もしくはすでに現物が壊れているとか)
  2. 遺物保護の観点(年間の展示日数制限とか。木質の物や紙などによくある)
  3. 国宝級で簡単に借りれない(輸送方法/管理/事前折衝/コストが尋常ではない)
  4. 実物史料が門外不出(だからレプリカがあるという発想。この場合交渉してもまず本物は借りれない)
  5. 単純に他の機関が先に借用している(基本的に早い者勝ちです)
  6. 過去に互いの関係において何らかの問題があった(したっぱ学芸員の力ではどうにもなりません)
  こんな理由でレプリカを借りるわけですが、実物の展示が少ないからといって展覧会を立ち上げる作業が楽になるわけではありません。

 たとえば、今回は正●院さんから青斑石でできたカメさん(正確にはスッポンか)のレプリカを借りたわけですが(本物は借りれない)、レプリカだからといって借用の手続きが簡略化されるようなことは全くありません。むしろ、本物を借用すると同様にとても厳しいチェック(書類審査、展示計画、管理方法、警備状況とか)がおこなわれます。担当者としては胃が痛くなる思いでありまして。

 借用当日は、白衣にマスクを着用し、和紙で作った細長い「こより」でレプリカのコンマ何mmの傷を指しながら、当事者同士で確認していきます(ちなみに、N学芸員は初めて見た「こより」の意味がわからず、指で傷をさしたら怒られました。指が当たって傷がついたらアカンということらしい)。

 ちなみに、展示パネルもほぼすべてがお手製。学芸員が文章を書き、Adobeのソフトでレイアウト・調整し、プリントアウトし、パネルに貼り付け、展示室にレイアウトを決めて、壁面に張り付けていきます。書いてしまうと簡単のようですが、案外時間がかかり不器用な私には大変な作業です。意外?と思われるかもしれませんが、展覧会って驚くほど手作りなんです(ちなみに片づけも)。

 しかし、このような状況はどこの博物館でも恐らく同じようなもの。どこの学芸員さんも同様かこれ以上のご苦労があるでしょう。何年も前から一つの特別展の作業をしていることもあります(ちなみに、A資料館では2012年秋期の作業にとりかかっています)。レプリカだろうが写真パネルだろうが、実物史料でも、指定文化財でも、特別展の立ち上げにかかわる作業は結構大変なんです。学芸員の奮闘の痕跡も博物館見学の隠れた見どころ?かもしれません。



【2】  (11.6.24.発行 Vol.110に掲載)

 飛鳥資料館夏期企画展
 「鋳造技術の考古学 -東アジアにひろがる鋳物師のわざ-」
  会期:2011年8月2日(火)~9月4日(日)

 金属を溶かし、鋳型に流し込むことによって製品を作る技術を鋳造技術といいます。東アジアにおける鋳造技術は、いまから4000年以上前の中国で出現し、殷周時代の複雑な青銅器を作り上げるまで発展します。やがてその技術は周辺の地域に伝わり、日本では奈良時代に巨大な東大寺盧舎那仏像を築きあげます。

 奈良文化財研究所では、これまでの60年近くにわたる活動のなかで、飛鳥・奈良時代を中心とした数多くの鋳造遺跡の調査をおこなうとともに、梵鐘・鏡・銭貨などさまざまな金属製品にたいする研究に取り組んでまいりました。本展では、東アジア史的な観点から鋳造技術の歴史的変遷をたどるとともに、奈文研の鋳造技術に関する調査研究を紹介いたします。

  お問合せ: TEL 0744-54-3561(飛鳥資料館)
  開館時間: 9:00~16:30(入館は16:00まで)
  休館日 : 月曜日

  <主な展示品(予定)>
   ・伝殷墟出土笵(泉屋博古館)
   ・灰陶青銅器笵(和泉市久保惣記念美術館)
   ・赤峰採取鞴口(京都大学総合博物館)
   ・唐子・鍵遺跡出土鋳造関連遺物(田原本町教委)
   ・飛鳥池遺跡出土鋳造関連遺物(奈文研藤原地区)
   ・平吉遺跡出土鋳造関連遺物(奈文研藤原地区)
   ・川原寺寺域北限出土鋳造関連遺物・鋳造遺構(奈文研藤原地区)
   ・山田寺梵鐘鋳型(奈文研藤原地区)
   ・平城京右京八条一坊十四坪出土鋳造関連遺物(奈文研平城地区)
   ・平城京左京二条二坊・三条二坊(奈文研平城地区)
   ・堺市太井遺跡出土鋳造関連遺物(大阪府埋文センター)
   ・和同開珎鋳造実験資料(奈文研藤原地区)
   ・海獣葡萄鏡鋳造実験資料(飛鳥資料館)

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「ガンバレ東北!腰痛学芸員の文化財レスキュー」

 3月11日のことはよく覚えている。ちょうど15時の休憩で宿直室へ向かうと、テレビで地震速報が流れていた。最初はあまり真に受けておらず、同僚と「津波なんか来ないじゃないか」と話していたら、画面の奥に大きな津波が見えてきて、船や家を次々と飲みこんでいった。何か映画でも見ているようで、自然災害の恐ろしさを目の当たりにした瞬間だった。

 今回の震災では多くの博物館や文化財も同じように甚大な被害を受けている。しかし、こういった激甚災害のときには、まず人命のレスキューから始まり、仮設住宅設営やインフラ復旧などが初期段階では重要な作業となってくるため、被災された地域ではどうしても文化財関連のことは後回しになってしまう。こうした背景から、被災した博物館や文化財を救うために、文化庁・東京文化財研究所・奈良文化財研究所が主体となって始まったのが「文化財レスキュー」である。

 先発隊は少し前からレスキューに向かっているが、収蔵庫は泥だらけ/ガレキだらけ。レスキューの前にガレキ撤去からスタートだ。筆者も間もなく文化財レスキューへとむかう身であり、最善は尽くすつもりであるが、腰痛学芸としては長時間の体力勝負と考えただけで少し背筋が凍る(正確には腰ヵ)。今後レスキュー事業が進んでくれば、復興に関わる発掘作業も始まり、N文研もその力を遺憾なく発揮するに違いないし、様々なレスキューの仕方が出てくるだろう。そのための第一歩として、まずはガレキを片づけ、散乱した文化財をまとめ、応急処置を施し、今後何が必要かを判断することから始まるのだ。

 今回の震災で、不幸にも学芸の方が全員お亡くなりになられた博物館もあると聞いている。個人的にはこのような博物館にレスキューに向かいたいと思っている。彼らは長年展覧会の構想を練り、図録の原稿を執筆し、イベントの準備をしていたに違いない。さぞかし無念だろう。個人的にはいろんな形のレスキューがあってよいと思っていて、難しいのは十二分に承知はしているが、いつの日か、彼らがやろうとしていた展覧会を何とか立ち上げれないだろうか。こういったことは、文化財レスキューよりも後の話かもしれないし、専門分野も全く違うかもしれないけども同じ学芸として、彼らの無念を少しでもそそぐことができるのではないかと思っている。

 まだまだ文化財レスキューも始まったばかり。関わるみんなが手さぐり段階ではあるけれども、貴重な文化財を一つでも多く救いだし、一日も早い復興へ力添えするために、腰痛学芸も現地で頑張ってきます。

 (学芸の一句)
  レスキューで しばらく婚活 おあずけだ



【3】 「腰痛学芸の文化財レスキュー(報告編)」 (11.8.5.発行 Vol.113に掲載)

 ひどい。あまりにもひどい。半分冠水した地面。放置された車。どこかから流されてきて山に激突した建物。泥に埋もれた結婚式の写真。かたっぽだけの子供のかわいらしい靴。お母さんが大切にしていた自慢のハンドバッグ。すべてをあの日の津波は飲み込んで、泥と瓦礫でメチャクチャにしてしまった。レスキューに訪れたここでは、みんなが大事にしていた多くのものが、今でもあの日のまま静かに横たわっている。

 7月上旬。文化財レスキューへと赴いた私たちの宿泊地は、宮城県仙台市のホテル。市内はまったく通常どおりで、車が多く行き交い、街のネオンが美しい。震災の影響は全く見えない。そんな街を見つつ、レスキューへと向かう先は宮城県東松島市の野蒜(のびる)地区にある市の収蔵庫。しかし、現地へと向かう最中でさえも、被災の影響はほとんどわからない。が、ある境でいきなり激甚災害の地区へと変貌する。その大きな差は、小さな川を一本隔ててるだけであったりする。ほんのわずかの地形の差が命運を分けたのだろう。この地区だけでも、数百名の方々がお亡くなりになられ、現在は町が復興しているというより、ガレキの撤去だけでも精一杯という印象である。町は未だに壊滅状態。当然、市の文化財収蔵庫に手が回るはずもない。

 収蔵庫は、海岸から1kmほど内陸で小学校の横にある。建物はコンクリート製であるからか、比較的しっかりと残っている。内部は本来、遺物を入れたテンバコ(*)が整然と並んでいたはずであった。その収蔵庫の中は、全てがめちゃくちゃ。室温も湿度も高い。窓を開けても風はほとんど流れない。汚泥が室内に10cm~30cm堆積し、独特の臭いが充満している。泥水の汚れは天井までくっきりと残っており、3mぐらいの津波がこの地を襲ったことは容易に想像がつく。

 この収蔵庫を片づけるチームには、文化庁、国立博物館、国立研究機関、国立大学、地元自治体などから精鋭たちが集まった。さらに、ボランティアなども加わり、正確には数えてはいないが総勢20名~30名程度。各分野の名うての専門家が集まり心強い。士気も高い。このメンバーなら何でもできそうな気すらしてくる。

 作業を始めてみると、ガレキと文化財を大量に含んだ汚泥を片づけるのは、精鋭部隊といえど想像以上に大変であることに気付く。力任せに泥を片づけると、遺物を傷つけたり、最悪の場合は汚泥と共に文化財を廃棄してしまうかもしれない。だからといって、あまりにも丁寧すぎると、いつまでたっても収蔵庫の片づけと整理が終わらないことになる。適切な速度と丁寧さを高い次元でバランスを取る必要がある。しかし、高温高湿の収蔵庫での作業は30分も作業すれば滝のように汗が流れ、小休憩を頻繁に挟まなければとてもじゃないが続けることができない。腰痛学芸としては、ぎっくり腰も心配だが、それ以上に熱中症が心配。レスキューに来た人間が倒れてレスキューされるほど滑稽な話はない。

 汚泥の中には、木製民具、土器、石器、貝殻、テンバコ、図面、ラベルなどがごちゃごちゃになっている。土器はかなりの数が割れてしまって、小さな破片になっている。ふつうの小石と区別がつきにくいものもある。貝殻などは言うまでもない。図面は濡れて、カビが生えている。これらを、丁寧に選り分け、新しいテンバコに入れ、写真を撮り、台帳をつくり、仮置の場所へとトラックで輸送する。図面類は、真空凍結処理(フリーズドライ)をするために乾かして運ぶ。泥の中には、近隣の住宅から流れてきた写真などの思い出の品も入っていることもある。こうしたものも、丁寧に取り出して地元の人々にお渡しする。こうした作業をひたすら続け、収蔵庫がだんだんと片付いていき、日を追うごとに綺麗になっていく。幾日もかけ数百ものテンバコを運びだす。そして、体力も限界に近づく中、スケジュールどおり最終日には遺物が片付き、野蒜収蔵庫の作業は完了し、なんとか多くの文化財を救うことができた。しかし、救わねばならない文化財は他の場所にもきっとあり、状況に適した柔軟なレスキューの姿勢が今後とも必要だろう。

 「東北はどうだった?」そう聞かれることがある。答えはいつも同じだ。被災地は、ガレキが未だに散乱し、復興には程遠い地獄の1丁目が数多くあった。そして、その救援のために様々な分野の専門家の方々がそれぞれの現場で必死で闘っておられた。ある人は瓦礫の中、ある人は前も見えないような砂ぼこりの中、ある人は命を危険にさらし先の見えない復旧作業の中。マスメディアのみでは感じ取ることが絶対にできない現実がそこには確かにあった。

 そして、何よりも印象深いのは、被災地のボランティアの方々が想像以上に元気で、逆にこちらが勇気づけられたことだ。力強く前に進んでいるという言葉が最もふさわしい。全てを乗り越え、元気で陽気な奥様方と、いつかここで宴会をしようと約束までした。僕は、いつの日か以前より美しく復興したこの地で、復興にかかわったみんなと開く飲み会をけっこう楽しみにしている。
        (テンバコ=遺物・出土品などを入れる保管用コンテナ)



【4】 「A資料館 秋期イベント(裏話)など」 (11.10.14.発行 Vol.117に掲載)

 今回の秋期特別展も、一筋縄にはいかない展覧会となり、書くネタには全く事欠かない事態となっている。特別展の立ち上げ作業の大混乱のネタは次回のお楽しみ?ということにして、今回は秋期に関わるイベントの話。

 「飛鳥」には展示室に並べることができない、いろんな至宝があります。奥明日香の美しい棚田や風景。明日香の食材をふんだんに用いた料理。地域に遺される不思議な伝承。秋の心地よい空気の中、いろんな至宝たちをみんなで見て・歩いて楽しくまわりませんか?このイベントでは、研究員やNPO会員による棚田や文化的景観の解説、保存の活動紹介、お昼のお食事処では、明日香の「食」についての解説など、飛鳥にのこされる様々な至宝たちを詳しく知る人に紹介していただきます。学芸員やNPOのみなさんと、展示室には並べれなかった飛鳥のいろんな至宝を、見て、食べて、歩いて、語って、飛鳥資料館での特別展のギャラリートークとあわせて、一日満喫してみてはいかがでしょう。

 ↑というのがA資料館チラシの裏面に書かれたイベントの案内の文言。要は、みんなで棚田や風景みたり、飯食ったり、展示遺物見てみない?ということである。チラシに書いてあるように、飛鳥にはいろんな見るべきものがあるが、イマイチ自分で見たり読んだりしてもよくわからない(もしくは頭に入らない)ことが多い。そういったものを、それぞれに詳しい人に説明してもらえば、きっと飛鳥をもっとよく知ってもらえるに違いない。説明するのは、奥明日香の棚田を守るNPO理事、飛鳥の食材にこだわるお食事処の女将、昔の飛鳥をよく知る地元のお爺さん、展示物を広く浅く知る腰痛学芸員などなどである。

 イベントは10/15と11/19であるが、この日程にはそれなりに(?)訳があって、1回目は棚田の稲がちょうど見ごろを迎え、2回目は紅葉が美しい日を選んでいたりする。しかし!諸機関との調整を図っていたら、チラシの配布が1回目にはほとんど間に合わず、配布の翌日には〆切というありさまで、十数名でのスタートとなるが、まあ仕方ない。

 このようなNPOや地元とのツアーの試みはA資料館ではおこなったことは無いため(たぶん)、いかんせん不手際は多いと思われるが、少しづつ改良を重ねていき、皆さんが楽しんでくれるイベントにしていきたいなと考えている。




【5】 秋期特別展イベント
     「みんなで歩く・見る・食べる-飛鳥のいろんな至宝たち」御報告
                             (11.12.9.発行 Vol.121に掲載)

 10月15日(土)と11月19日(土)にギャラリートークと連動させて行った秋期特別展イベント「みんなで歩く・見る・食べる-飛鳥のいろんな至宝たち」。

 要は、奥明日香の棚田や飛鳥川を見て歩き、お食事処でみんなでおいしくご飯を食べたりしながら、その道の方々に解説をしていただこうとい企画である。が、両日は雨。隣の山では大雨洪水警報が出るほどで、前が見えないような大雨に見舞われると、当然美しい棚田は泥濘となる。紅葉した葉は雨で散り、上品なせせらぎが普段は聞こえる飛鳥川も轟々漠々と濁流が流れる。当然、コースに入っていた入谷に登ったところで、美しい明日香の眺めなどは望むべくもない。小生は、昔から雨男であるので今は晴れ男を企画メンバーに組み込んだのだが、私はどうやらそれを打ち負かす大雨男であったらしい。最近あだ名が「水神様」になりつつあるようだが、雨男も極めると神になれるらしい。今度からイベントを企画するときは水神様の効果すら打ち消す「干ばつ女」「砂漠男」と一緒にしようと思う。

 とはいえ、雨にうたれたと言っても皆さんといろいろ回って明日香を見るのは楽しいもんで、その道の詳しい人にいろいろ話を聞くと新しい発見があったりする。もちろん腰痛学芸もギャラリートークでは図録には書けない話や、裏方の話をしゃべることができる貴重な場であったと思っている。そうこうしながらも無事(?)、秋期特別展もイベントも終了。これからも飛鳥資料館では、来館者に楽しんでもらえる催し物を企画していこうと考えているところである。この場を借りてイベントに関連してお世話になった両槻会をはじめとし、お世話になった皆様に御礼もうしあげます。

 現在、飛鳥資料館では借用した遺物の返却が進んでいる。四十八体仏も天人文磚もみな嫁ぎ先に帰っていった。飛鳥遺珍で集まった遺物達が次に実家に帰ってくるのは何年先かはわからないが、その次回をけっこう楽しみにしている。     A資料館 水神様(みずがみ ためし)


(今月の博物館トリビア) ~学芸員の人数~ 
 ・国家博物館(中国)                320人!
 ・スミソニアン国立自然史博物館(アメリカ)  270人
 ・大英帝国博物館(イギリス)           250人
 ・ルーブル美術館(フランス)           150人
 ・国立中央博物館(韓国)              76人
 ・東京国立博物館(日本)              53人(研究職全て)
      ・
      ・
      ・
      ・
 ・飛鳥資料館                        3人 ( ̄Д ̄;)
                         (水神様調べによる)




【6】 「とある博物館の企画展 -とある学芸への聞き取り談話-」
                           (インタビュアー:腰痛皇子)
                              (12.2.3.発行 Vol.126に掲載)

 これは、吾輩がA資料館冬の企画展の主担当となった奥飛鳥の水神様氏へ行った聞き取り談話である。(以下、談話)

 A資料館の冬期企画展「ASUKAの考古学」。これは、飛鳥・藤原地域の発掘成果の速報を主眼に置いた展覧会である。が、大きな本質的問題を一つ抱えている。速報展であるがゆえに、目立った遺物が出土した年と、そうでない年で格段の差が出てしまう可能性がある。今年の冬期の打ち合わせでは、各機関から「今年は厳しい」と常々いわれており、主担当として展示をどのように組み立てるか?にはけっこう苦心した。

 展示するべき物が少ない。そこで、まず考えたのは、「文化的景観」を展示に入れること。2011年4月に重要文化的景観に選定された奥飛鳥の話はタイムリーであるし、景観も文化財としてカウントされるようになった昨今、速報展に組み込んでも無理はない。また、奥飛鳥の「水」に縁がある私にとっても悪い話ではない。

 その次に考えたのは、速報性にとらわれず、理解を容易にするものであれば常設展や過去の出土遺物も問わず陳列することにした。また、常々研究所の活動は紹介せねばならないと考えていたので、研究所の「人」にスポットを当てた小さな写真パネルを並べた(ノリで作ったわりに思いのほか好評)。
 さらに今回のために無理くり用意した牽牛子塚古墳のイメージ模型やCG動画などは、多くの来館者の方々に古墳のイメージをつかんでいただいているようだ。とはいえ、まだまだ調査/精査が続く古墳であるため、現段階はあくまでイメージ模型。今後積み重ねられるであろう最新の研究結果を反映させ、お披露目するたび新たな姿になり、いつの日か「復原模型」になればと願っている。

 イベントも一つ立ち上げた。今回初めての試みである写真コンテスト「知られざる飛鳥の情景」。タイトルは、2秒で適当に決めたのがそのまま最後まで来たものである。要は飛鳥のみんなが知らない風景とかを知りたいなあ、というテーマ。応募枚数・撮影日時も制限は全くなく、明日香村の文化財っぽいものが主眼であれば、風景でも、人が入っても動物が入っても全くOKという極めてオープンな写真展だ。強いていうなれば、冬期の企画展がらみのテーマであれば入選しやすいという裏情報もある。さらに賞品として飛鳥資料館官位まで授与されることになった(飛鳥の地に律令制が1300年ぶりに復活)。今後も回数を重ねて、将来的には写真集なんかにできればいいなと思っている。

 自分が主担当になった展覧会は息子・娘のようなもんだ。評判が悪いと何とも言えない気分になる。アンケートを見たり、展示室をまわってお客さんの様子を見ながらマイナーチェンジを繰り返している。不出来な子供?を少しでも何とか良くしてあげようという気持ちは親心に近いかもしれない。そういった意味で、展覧会は主担当の「カラー」が如実に表れるといっても過言ではないだろう。(以上、氏の談話)

 このように、水神氏は小さな企画展でもお客さんのために何とかいろいろ考えながら学芸をこなしているようで、吾輩はなかなか感心した。その極めて謙虚・小粋・ナイスガイで男淵の滝のように純粋な心を忘れずに展示業務に邁進していただきたい。 (リポーター:腰痛皇子)

 【プロフィール】
  水神 様(みずがみ ためし)
  出身地:奥飛鳥男淵の滝つぼ付近
  年齢:31歳(世を忍ぶ仮の年齢)
  職業:学芸/研究者(世を忍ぶ仮の生業)
  学位:帝国大学博士(雨男学)
  特技:肝心な日に豪雨を降らすこと
  好みのタイプ:女淵の滝のような女性




【7】 「第1回飛鳥資料館写真コンテスト『-知られざる飛鳥の情景-』御礼と裏話」
                              (12.3.30.発行 Vol.130に掲載)
 3月4日(日)。
 報道も集まる中、飛鳥資料館として初めて行った写真コンテストの表彰式が行われようとしていた。このコンテストと表彰式は我輩が考案し準備したものだが、当日はスタイリッシュで繊細な小雨。「さすがの雨男ですねぇ」などと声をかけられたが、どうやらこの民の者は、この雨はご利益の水(注1)であることを知らないらしい。

 今回の写真展では、A資料館官位が入賞者には叙されることになったが、その官位に負けぬ表彰状をと思い、妙にこだわってみた。そこで、巻物型の表彰状を特注。この巻物、表具屋に発注し材料にもこだわり、質の高いものとした。順位ごとに色まで変えてある。文字も味気ないプリントアウトではなく、筆耕をお願いした。結果、入賞者の下賜宝物(注2)よりもはるかに費用がかさむという誤算が発生したが、非常に好評であるからして、次回以降も改良を重ね特注の予定。

風人に授与された巻物

 余談だが、某FUTATUKI改(注3)のボスが応募写真を直接持ってきてくれたとき、

 水神「わざわざ、ありがとうございますぅ~。大人の事情で入選させますからねっ(ハート)」
 ボス「よろしくお願いしますぅ~(笑)」
 
 なんて会話をしていた。どうせ数点の応募しかないなら、世話になっている某FUTATUKI改のボスに賞をあげるのも一興かもしれない。が、応募が終わってみるとかなりの点数。さらに、審査当日には奈文研の写真室/景観研究室/学芸がガチで選び始めた。どうやら、大人の事情で入選させる余地は無さそうだ。我輩は、審査当日はほぼ黒子(注4)に徹し、皆が入選作品を選んでくるのを見守っていた。すると、写真室の御大が、某FUTATUKI改のボスの写真を一番最初に選んで持ってきた。これには驚いた。某FUTATUKI改の手が写真室にまで及んでいるのかと思ったが、当の本人は応募者を知らないので、どうやらガチだ。

 これは面倒なことになってきた。「大人の事情で入選させますからねっ」と言った以上、どうフォローしても「大人の事情」で選んだようにしか見えないではないか。だが結果は結果。惜しむらくは、写真の画質が低かったため2位となったが、高画質であったらどうなっていたかわからない。撮影した秘密結社のボスは「偶然」と言い切るが、「偶然」に出会うためには、相当に飛鳥に赴かねば出会うことは無かろう。そういう意味では他の入選者のカメラマンの方が足しげく飛鳥に通われたのと本質論としては同じで、これは必然であったのかもしれない。

 今回、飛鳥資料館としては初めての取り組みではあったが、160点を超える応募があり大変ありがたい限りである。最初は数点しか応募が無かった場合どうするか?という議論がわりと現実味をもって話し合われていた。「-知られざる飛鳥の情景-」ではなく「-知られざる飛鳥の写真コンテスト-」になってしまっては話にならない。しかし、想像以上の応募作品が集まり、写真コンテストとしての体裁を保つことができ、多くのメディアにも取り上げていたたいだ。何よりも、お客さんに喜んでいただいた。企画した我輩も意外と大変だったが、これまた意外に面白かったというのが本音。

 次回は夏に開催する予定だが、今回とは視点とテイストを変えた写真展にしようと計画中である。けっこう難しい。乞うご期待。
                            (水神 様)

【水神辞典-用語と使い方-】
  • 注1)「ご利益の水」・・お肌と髪がモイストになる効果。
  • 注2)「下賜宝物」・・・入賞の賞品のこと。
  • 注3)「某FUTATUKI改」・構成員同士がコードネームを用いる秘密組織。近年、両槻会との関連が疑われる。
  • 注4)「黒子」・・・・・裏方の意味。黒柳徹子の略と勘違いすることがあるので注意が必要。

 【次回予告編  劇場版:A資料館改装記-Road of 大改修- PartI】

 開館から数十年が過ぎようとしているA資料館。随所にほつれが見られ、アンケートには「いつ見ても変化無し」という文句が並ぶ。また、博物館展示には莫大な金がかかる。改装のコンセプトはどのように?様々な問題が山積される中、男達が立ち上がった。水神様・腰痛皇子・婚活学芸の3人が夢の狂演。問題を滅多切りにしていくその姿。漢(おとこ)達の戦いの記録。



【8】 「Road of the 大改修 Part 1 ~改革の心意気~」
                              (12.5.25.発行 Vol.134に掲載)

  「同情するなら金をくれ!」
  太古の昔、某アダチユミさんのドラマの名言が頭をよぎる。腰痛学芸は腰以外に頭も痛めていた。開館してから、初の大改装を行うA資料館であるが、いかんせんお金が足りない。何故、そんなにお金がかかるのか?と問われるが、逆に問いたい。なぜ、100円ショップでいろんなものを買うことができるのか?それは、薄利多売で少々の質の低下には目をつぶり、誰が作っても同じであるものを大量生産しているから「100円で物を買うことができる」わけである。だが、文化財の分野はまったく逆。大抵のものが一品生産で、質にこだわる。安く済むはずがない。ましてや、全館改装などいくらかかるか検討もつかない。そんなわけで、2年~3年かけて順次各所を改装していく予定。詳細等はHPでも公開するが、部分的に館を閉じている間は、来館者のお客様にはご迷惑をおかけするが御容赦いただきたい。こういった場をお借りして、改修の情報は少しずつ流していく予定。

 しかし、ちょっと待てよ。政治の動向に詳しい人は「国立文化財機構はLenFor先生の事業仕分で、事業拡大!のご指示を受けたのだからガンガン展示も改装もイベントもやれるだろ!」と言うだろう。しかし、これはご存知だろうか?

 「事業拡大の予算は各自で確保」

 この御時勢、人気が無い文化財に誰が金を出すんだ?ちなみに、どの組織も、お金も人員も削られ(給料も!?)、事実上事業拡大ができる予算を確保できるとこなぞ皆無。少なくとも士気が上がっているとは到底思えない。特殊な何らかの事情で、幸運にもよほど予算/財源に恵まれている所を除いては。ハッキリ言って全国の多くの組織で諦めムードが漂っている。

 だが、我輩は最後の一人になっても、A資料館大改装を契機としこの地域や文化財展示の在り方の大改革を成し遂げるつもりだ。そのためには綿密な計画が必要。皆が余力が無いといっても、まだ余力があるウチに力を結集して大改革に取り組むしかない。ジリ貧で各個撃破されてしまうよりも、皆で力を合わせ問題に立ち向かえば、驚くべきようなことができるかもしれない。また、時流に乗って資金や人材が潤沢な集団が社会にはあるのも確か。つまり、向かうべき目標が定まれば、民間・村・市・県・国も関係ない。互いにメリットがあるところは、ガンガン手を組まなければならない。こんな酷い状況を目の当たりにして「前例が無いから」「無難にいつもどおりで」そんなこと言ってるヤツの気が知れない。飛鳥地域の魅力・文化財の魅力・研究所の意義、いろんなものを次の世代、これまで興味が無かった人たちにも真剣に伝える工夫や改革をおこなわねば、飛鳥といわず考古学や文化財には未来は無い。

 奈良文化財研究所は、日本全国の研究機関の☆だろう(と思ってる)。我輩は、この飛鳥という地域を檜舞台とし、飛鳥資料館を日本全国の中小博物館の☆にしたい。お金が無くとも、人員が少なくとも、閑古鳥すらいなくても、これだけやれるところを世界に魅せ付けるのだ!
                                        水神 様

 とある学芸員の出張 -東北編-

 4月-とある学芸員は展示物の借用のため、東北へと向う。京都駅から新幹線に乗ろうとホームへ向かった。そのとき「キャー!」という悲鳴と共に、人々が階段を駆け下りてくる。我輩がイケメン/インテリ/セクシー過ぎて、下々の人心を掴んだかと思ったがどうやら違うようだ。ホームに雨が横殴りで入り込んでいるのが原因のようだ。だがオレは引かない。ずぶ濡れ。だがあえて、階段をゆっくり上がる。はは。屋根があるホームなのに雨で前が見えない。

 「爆弾低気圧」

 この季節に、台風並みの低気圧が真上にあるようだ。こんな用語聞いたことが無い。我輩の力はついに新しい用語を創りだすまでになった。我輩は、爆弾低気圧と共に東北へと向かうわけだが、あたりまえだが暴風雨は北国では暴風雪となる。現地は交通マヒ。倉庫がひっくり返り、電柱が倒れてる。我輩を本気にさせるとここまでヤレルということだ。見くびらない方がイイ。ただ、本気を出しすぎて借用物を運ぶ美術専用車両が現地に到着できなかったのは多少計算外ではあるが。・・・とある学芸の旅は続く。



【9】 「光の回廊2012 再生 -Rebirth- & Road of the 大改修 Part 2」
                                (12.7.6.発行 Vol.137に掲載)

 さて、今年の夏の飛鳥資料館は一味違う。例年、9月に明日香村でロウソクを並べてライトアップしていた「光の回廊」。飛鳥資料館でも、コレに参加し一生懸命ロウソクを並べてきた。今年もおんなじようにやるか?水神が担当になったら、そんなはずはない。

 飛鳥資料館は開館以来37年ぶりの大改装中だ。また、さびしい話ではあるが(責任はこちらにあるんだけれども)入館者は減り続け、それどころか明日香村自体から客足が遠のいている。我輩のように歴史漬の生活をしていると気づきにくいが、社会の考古離れ・歴史離れはひどいもんだ。さらに、震災復興に関る機関としては、いまだ復興とは程遠い地域が残されているのも心が痛む。

 我輩が考えるイベントはいつも、ただのお祭り騒ぎではなく、いろんな目的と意味を込めて考えているつもりだ。そして、だれも損しないみんなが喜ぶように心がけている。今回の「光の回廊」には、資料館・明日香・歴史・被災地などさまざまな意味の「再生」を掲げて、このイベントを立ち上げている。計画/総指揮は全て我輩だが、全所的了解が取れ突撃命令が出た。本当にうまくいくかはわからない。何か問題が起きるかもしれない。だが、ここに至って何もせず座して死を待つより、敵陣に突っ込んで屍を前に向けて華々しく散りたいもんだ。

 フタツキ戒さんの方々にも、これから大変お世話にはなるのですが、まだ、報道発表前なので概念的?精神論的?なことしかお伝えできないのが、こちらとしてももどかしいが、ただ言えることは、これは世界に響く。それだけはお伝えしておこう。

 さて、水神が担当している資料館大改修。ただいま、秋展用に衣替えするために閉鎖中である。展示物を秋展用に入れ替えるのかな?我輩がやるのに、それだけで終わるはず無いだろう(笑)オープニングのときには、まったく変わった姿の第一展示室をお見せしよう。施工を行う業者も決まり、これからは極めてバタバタではあるが、突っ走るだけだ。

 コレに合わせて、皆さんにお伝えしたいのは、ロビーも合わせて改修のため、入館がしづらくなってしまったり、最悪イレギュラーな休館が出てしまう可能性があるってことだ(なるべくないように心掛けるが)。だから、しばらくの間は資料館に来るときはHPとか電話でイレギュラーな事態になってないか確認してから訪れて欲しい。

 飛鳥資料館公式サイト

 また、いろんな層のお客さんの意見も取り入れていく予定だ。どのように吸い上げるかは検討中だが、とりあえずフタツキ戒の方々は、資料館にでも来たときに、アンケートにでも書いてくれたらイイ(笑)意外かもしれんが、一応神の称号を持つ水神はアンケートは全て端から端まで目を通している。一つ、お願いがあるのは、アンケートに気持ちが入りすぎ、字が達筆すぎて読めない(笑)だが、そんな方々の「気持ち」はしっかり受け取っているつもりだ。さて・・今日はACCUの講師。そろそろ仕事に向かうか。  (水神 様)



【10】「We Are All One 飛鳥資料館×両槻会」 (12.8.31.発行 Vol.142に掲載)

 We are all One。訳すると「私たちは一つ」。これは、須藤元気さんがよく使われている言葉だ。只今、朝方の4:30。いろいろと佳境に入り、ナチュラルハイな時間になってはいるが、とりあえず今日の原稿には、今回のイベントに対する思いをぶつけてみるつもりだ。今回、「光の回廊2012-甦る古の記憶-」のイベントはWORLD ORDERと飛鳥資料館のコラボが注目されており、九州から北海道まで日本全国各地からお客さんが飛鳥資料館に訪れる。もちろん、公演自体もけっこうこだわったつもりなので、純粋に楽しめる内容であることは間違いないが、それだけで終わらせてしまうともったいない。というか、この企画を考え付いた時から、いろんなことを考えてきた。今日はこの場を借りて、我輩の構想をちょっとだけ書いてみよう。

【Project Rebirth】
 近年の飛鳥。というか奈良。歴史離れや観光客離れから、人自体が根本的に遠のいている。人が遠のくと、観光業が衰退。泊まるところがないから、食べるところが無いから人が来ない。人が来ないから、公共施設の入場者は減る。あたりまえだがそんな施設の予算は削られ、さらに縮小。けっこう深刻な悪循環。そんな中、水神が考え付いた無駄に壮大な復活計画「Project Rebirth」。何故英語?「再生計画」にすると、崩壊寸前の政党のキャッチコピーの雰囲気がするので、あえて英語にしてみた。「Rebirth Project」のほうがよくね?という意見もあろう。商標登録・・。水神はそのへんのところは細かい。

 そもそも、「甦る古の記憶」という言葉も「お!なんか響きが歴史っぽくてカッコよくね!?」という気持ちも10%ぐらいはあるが、それなりに考えてつけたものだ。当日来館者とボランティアに配布されるリーフレットには、そのあたりは一応は書いたつもりだ。まあ、読んでもらえばわかると思う。このプロジェクト自体は、今後とも続けていく予定。今回はその第一弾。

【コラボ 飛鳥資料館 × 両槻会】 
 新聞報道には、紙幅の関係、というよりは短い文言で読者に簡単に伝えるため、「ギャラリートーク」という文言になったが、我輩と蓋付貝(注1)の皆さんで行うイベントの内容の我輩の真意を書いてみよう。たぶん、当日資料館の中に入られるお客さんはほとんどが「飛鳥バージン」のはずだ。飛鳥に対する知識は無いと見ている。つまり、良くも悪くも先入観無く飛鳥に来られると思ってよい。

 そこで、皆さん思い出して欲しい。飛鳥が好きになったきっかけは何?目を閉じてゆっくり考えて欲しい。古代の歴史?おいしい食べ物?恋人との思い出?ゆっくりとした時間?美しい風景?ちなみに我輩は「いつの間にか」(><)そんな「キッカケ」を来館者の人に与えて欲しい。これは、絶対にみんな持っているはず。我輩は専門的 or マニアックな知識をガンンしゃべって欲しいと考えているわけではない。むしろ、そのほうが逆効果になりかねない。しゃべることが間違えていようが、個人的見解/趣味だろうがいっこうにかまわない。遠方から初めてきたお客さん、ものすごい久しぶりに来た人たちに、飛鳥が好きになるキッカケを与えてあげて欲しい。

 具体的には、何をするんだ?ナイトミュージアムでは、いろんな展示物は置くつもりだが、基本的に初心者向けの解説パネルがあるから、それを読めば多くの人たちは理解してくれるだろう。だけど、おそらく当日はいろんな人がいる。展示物に妙に興味をそそられている人、もしくは首をかしげている人、こんなきれいな風景があるんだなあと関心している人、トイレがどこにあるかわかんない人、果ては出口がわかんなくなった人。あ、お婆さん何か困ってるなとか。ん?子供が迷子かな?こんな人たちと一緒におしゃべりして欲しい。場合によっては、熱心に解説を読んでいる人には、何もしないのがサポートかもしれない。ちょっとしたサポートで、飛鳥の魅力の理解が進んだり、ちょっとした困ったことが解決できたり。そうした、ちょっとしたことの積み重ねで「飛鳥での記憶」がきっと良い思い出になると思う。そうした人たちは、きっと飛鳥に再び来てくれると思う。

 今回、すでに多くの蓋付貝の皆さんからボランティアのお申し出があり、たいへんありがたい限りである。感謝してもしきれないぐらいだ。また、迷っておられる方、自分には無理!と思われる方もいらっしゃるかもしれない。だが、書いたように特別なことをお願いするというよりは、よく言えば新たなお客さんのちょっとしたお手伝い。悪く?言えば飛鳥ウィルス(注2)の感染を目指している。

 当日はみんなで楽しみましょう!(^^)/ 人生楽しんだもん勝ちだ。これは間違いない。

 最後は、須藤元気さんの言葉を借りよう。We Are All One!
                            (水神 様)
光の回廊2012-甦る古の記憶-」(飛鳥資料館公式サイト)
 

【水神辞典】
(注1)蓋付貝(ふたつきかい)
 飛鳥川のほとりで見られる淡水性の貝。玄武のエサになる。貝に付いている蓋を詳しく見ると、個体ごとの識別名が表記されている場合がある。歴史的には古代から、奥飛鳥に住む水神のお供え物としても長く用いられてきた。この貝は意外と活動的で、逃げ出すとすぐに飛鳥を徘徊するため鑑賞・飼育用には向かない。食用としての歴史は浅く、人が生で食べるとお腹を壊すが、から揚げにすると癖になる味。

(注2)A-Virus
 蓋付貝が感染しているウィルス。近年、蓋付貝の依存性との関連性が指摘され問題となっている。その依存性によりどういうわけだか、飛鳥に再び訪れてしまう。
 その原因は新進気鋭のイケメン学者・成田氏によると「Asuka - Virus 1型」よるとの説が注目されている。



【11】 「水神通信―新羅千年ノ都慶州」  (12.10.12.発行 Vol.145に掲載)

 ただいま水神は、韓国の慶州にいる。秋期特別展「花開く都城文化」の借用のためだ。今日と明日は慶州にいて、明後日は扶余に行く。そのまま週末まで集荷と借用物の状態チェックを進め、土曜日の夜中に飛鳥に帰国。翌日は、韓国から来られる方々のお迎えとご接待。週明けからは特別展の最終チェックと、韓国の借用物の開梱作業だ。そして開幕。そのあとは、ちょっと休むか。

 しかし、これまた開幕についてはいろいろあるもんだ。奥飛鳥で生まれて1432年ほどたつが、これほどのドタバタは「壬申の乱」以来のような気がする。あけてビックリな問題点もたくさんある。それは、また後日。さて今日は、海外展などをやるときの段取りをここで書いてみよう。

 1)梱包作業@借用機関
 -------国外輸送-----------
 2)開梱作業@飛鳥資料館
 3)展示作業@飛鳥資料館
 -------特別展期間---------
 4)梱包作業@飛鳥資料館
 -------国外輸送-----------
 5)開梱作業@借用機関

 こう書いてみると案外普通じゃない?と思う人もいるかもしれない。だが、1)~5)の過程全てにおいて、こちらと先方の学芸で、傷の状態から全てにいたるまで確認し、サインまでする。つまり、飛鳥資料館での開梱/梱包作業には、韓国から遺物の護送官(クーリエ)が来るってことだ。彼らとこちらがそろわないと開梱と展示はできない。これが、究極の貸借における確認方法と言える。が、問題は恐ろしく時間と手間がかかる。だが、万が一問題が起きたときには国際問題になりかねないので、この手間は必要不可欠といえる。1)~5)までを両者で確認しておけば、世知辛い話だが問題が起きても責任の所在も明らかにすることができる。

 例えば。1)~2)の間で問題が起きれば、それは輸送業者の責任となるし、3)~4)の間で問題が起きれば、資料館の責任となる。当たり前だが、そのあたりはけっこうシビア。みんなが見てる展覧会の何気ない海外からの借用物はこの手間かそれ以上の苦労を経て借りてきているのだ。

 奈文研は長年、韓国と中国と3国で共同研究を積み重ねてきた。しかし、タイミングが悪いことにこの国際情勢だ。機関同士や研究員/学芸同士は仲が良いのだが、国家間の関りになると、どうにもならならない問題や情勢が出てくるのは確かである。しかし、こんな時だからこそ、これまで協力してきた国々の人々の架け橋となるべく奈文研が動くときではないだろうか。そして、我輩はこの秋のために随分とこれまで韓国に訪れてきた。どの場所でも、老若男女問わず大変よくしていただいた。何とか、その恩に報いるためにも、一学芸としては何とかいい展覧会を立ち上げたい。

 さて、明日は国立慶州文化財研究所だ。今回の借用で最も点数が多い箇所。頑張るか。

(学芸トリビア ~学芸借用7つ道具~)
・調書(借用物の状態確認書。概要とか写真でわかんないことを書く)
・デジカメ(フラッシュを使わなくてもいける高感度と高精細が重要)
・手袋(金属関係は使いましょう。先方の規定にもよる)
・マスク(マナーみたいなもんかな。案外、息がしにくい)
・コンベックス/物差し(傷やワレと一緒に撮影すると便利)
・ノートPC(状態や注意点はガンガン記録)
・観光本(地元のおいしいものは食べて帰りましょう(^^)


【光の回廊2012 ―甦る古の記憶― 御礼】

 しかし、ここまで究極のドタバタの中、時間不足・予算不足・人手不足でイベントに突っ込み、よくもココまでうまくいったもんだ。本当にいろいろありすぎて、映像記録を残してたら、本当にドキュメンタリードラマになるんじゃないかと思うぐらいだ。ひとえに、様々な人たちの協力があったことは言うまでもない。本当に長い間、多くに人たちがこのプロジェクトの意義を理解し、本当に数えだしたらキリが無いぐらいの献身的努力で「光の回廊2012 ―甦る古の記憶―」を完遂へと導いてくれた。

 イベント完了後には、これまでに無いぐらい本当に多くの人からメール・お手紙をもらい、イベントへ関った方々への感謝が綴られていた。掲示板やツイッターなどのSNSでも、多くの人の感動を目にすることができるWORLD ORDER史上最高の公演という人もいる。
2012光の回廊WORLD ORDER動画

 両槻会の方々の貢献にも、言葉では尽くせないほどの感謝をしている。しかし、皆さんの貢献にもかかわらず、多くのご迷惑もおかけしたようだが、仮にも我輩は奥飛鳥の神だから、すでに種々改革を実行し、もう同じ問題は起きないようにしてある。Project Rebirth-飛鳥再生計画。関った全ての方々が我輩の想像を超える働きをしてくれたからこれほどのものができた。だが、この流れを一過性のお祭りにしてはならない。飛鳥の歴史と文化を広めるには、これからが大事なのだ。

【光の回廊2012 ―雑記―】
(1週間前)
 水神はこう見えてけっこうモテる。熱い情熱をもった女性達が僕のもとに駆けつけてくれる。彼女達は、南の海で生まれ、熱い大洋の力を吸収し、全力で愛情をぶつけてくれる。「光の回廊2012」に到来の予報が出た彼女の名前は「サンバ」(気象庁:台風アジア呼称参照)。如何にもお祭りらしい名前じゃないか。中心気圧900hPa。やるじゃないか(光の回廊の翌日、彼女の愛の風で仮設テントが宙を舞った)。

(15日 初日)
 照明・映像・指揮所がつまったタワー。ここに、ありとあらゆる機能がつまっている。人間で言うなら脳にあたる。この施設は雷にはめっぽう弱い。雷となるとイベント即中止。15日の夕方、真っ黒いモコモコした雲から、縦横無人に走る雷が見えた。雷神様まで駆けつけてきたか。たぶん、あの雲の中に太鼓を持ってトラのパンツをはいた雷様がいるんだろう。頼むから来ないでくれ。

(16日 二日目)
 朝日新聞から驚異的な報告「ゲリラ豪雨をもたらす雲が飛鳥へ夜ごろ到来」。台風、雷雲、ゲリラ豪雨、この3枚がそろったとき、「オレの力(雨男)は本物だな」と思った。体力的には限界だが、メンタルは最高に強くなった。何が起きても揺らぐことも無い。最後にできることはまっすぐに進むのみ。後悔は無い。

(本番)
 しかし、奇跡が。本番は快晴(吉野と桜井では雨が降ったらしいが)。ロウソクの灯火に照らされた前庭。建物や木々を美しく照らす照明。幻想的な空間と星空のコラボの下でのWORLD ORDERのステージング、学芸と両槻会でのナイトミュージアム。今考えると、出来すぎなぐらい全てがうまくいった。限界の中で関った皆が考えていたことは、「見に来てくれる人たちに感動と、飛鳥を好きになってもらおう」。みんなの一念が、何か奇跡を起こしたのだ。

【水神検疫所緊急情報】

 水神検疫所が9月16日(日)飛鳥資料館にて、ASUKAウイルスの感染(極めて深刻)を確認いたしました。「光の回廊2012 ―甦る古の記憶―」イベント直後から1週間以内に、多くの来館者から学芸室宛にメールや手紙で「飛鳥にまた来たい」と言う内容が書かれるなど、典型的ASUKA1型ウイルスの症状が確認されております。また、インターネット上でも「飛鳥にまた来てみたいと思う」などの書き込みも見られ、検疫所が把握する以上の感染が広がっていることが考えられます。

 このウイルスの症状の抜本的な解決方法は確認されておりませんが、奥飛鳥の男淵と女淵の水を調合し、藤原宮の土を混ぜるとワクチンになるなどとの情報があり確認中です。上記症状に心当たりの方は、奥飛鳥水神検疫所までご連絡ください。

(ウイルスの症状)
 ASUKA1型
 どいうわけだか、交通が不便な飛鳥に何度も訪れてしまう。原因不明の徘徊型の病。某フタツキ会の会員の98%が感染率をほこるという。
     
 ASUKA2型
 飛鳥の歴史に異常に興味を示し、仕事などに悪影響が出る。深刻になると「蘇我氏~」などと意味のわからないことを喋る。

 ASUKA3型
 飛鳥の風景やゆっくりとした時間に心を奪われ、魂を吸い取られたようになる。現実社会のスピードに対応できなくなるなどの弊害がある。



【12】 「花開く都城文化 無事終了御礼!?」  (12.12.14.発行 Vol.149に掲載)

 ただいま12月11日(火)5:55。
 今日は(正確には昨日)は、某秘密結社「FUTATUKI」の原稿〆切の日だ。我輩はただいま韓国の扶余にいる。気のせいか、秘密結社の原稿を書いているときはいつも韓国にいる気がするが。そして、督促におびえながらいつも朝方に原稿を書いている気がする・・気のせいか・・?この組織の督促(脅迫状)は恐ろしいので早めに書いてしまうか。

 我輩は只今、「花開く都城文化」の返却に韓国に来ている。今日は、扶余文化財研究所で検品を済ませ、その足で慶州へ移動。明日は慶州文化財研究所/慶州国立博物館だ。明後日は韓国の文化財の総本山で大田にある国立文化財研究所へご挨拶だ。うーん、けっこう大変。

 我輩は一応「水」の神様だが(とはいえ若手の神)、以前東北で経験したように、極寒の地に行けば雨は豪雪になる。ただいま韓国は極度に温度がさがっており、当然大雪だ。我輩が「ユキ」の神様に変身した瞬間でもある。急な大雪になると当たり前だが、交通機関が混乱する。我輩たちは、空港の隣にあるカーゴターミナルで借用物の荷降ろしと通関手続きが必要なんだが、ここが大雪でいろんな作業がおくれ大混乱。怒号が響いている。通常30分~1時間程度で出てくるんだが。豪雪の中、けっこう長い時間待たなくてはならないらしい。まあ少々は仕方無い。

1時間後
 輸送会社の人「今日は雪で込んでるから遅れますねっ(笑)」
2時間後
 輸「遅いから、早くするように交渉してきますねっ(怒)」
3時間後
 輸「荷物が半分出てきたところで、韓国の通関の人が姿が見えなくなりました(泣)」
4時間後
 輸「・・・・・」
4時間半後(荷物が出てくる)
 輸「」

 寒すぎて声もでない。学芸の仕事で「待ち」という状態はけっこうあることだが、これは過酷。いずれにしても、あとは今日からの開梱を無事終えれば、我輩のミッションは完了、と同時に「花開く都城文化」の全てが完了する。展覧会の会期が終われば終了じゃない。学芸にとっては返却するまでが展覧会であり、そして一番緊張する瞬間だ。しかし、それが終われば韓国の方々が熱烈な歓迎会?を開いてくれるようだから楽しみにしておこう。この2年間で辛いものをおいしく食べれるようになったこと、韓国の友達が沢山増えたことは大きな収穫だが、そのあたりに共同研究の根底にあるべき何かを見た気がした。

~水神先生の韓国語講座~
 2年間の韓国通いで水神様が覚えた全単語を余すことなくここで披露!
 ・クレヨ(意味:まじで!?)
 ・ヒョン(意味:兄貴)
 ・ソジュ(意味:焼酎)
  次週は水神先生による「韓国女性にモテるには」講座 


【タブレット端末アンケート御協力依頼】
 飛鳥資料館では来年度あたりからタブレット端末の運用を本格的に開始したいと思っている。要は音声解説だけじゃあんまりだから、タブレット端末(iPadみたいなやつ)でいろんな画像やウラ情報が見れたらいいなとのコンセプト。
 その試作版として花開く都城文化の解説タブレットをつくってみた。もちろん、試作版なのでさほどは造りこんでないし、メインであった中国の展示物は使えなくなっているから、内容的には物足りないわけだが。
 で、皆様にご協力依頼なのですが、飛鳥資料館に足を運んだときに、タブレット端末のアンケートに答えて欲しい。受付の人に言えば無料で貸してくれるはずだ。今後の運用に向けてとても参考にしますので。例えば、「もっと軽い/小さいほうがいいな」「字が小さいなあ」「こんな機能があったら・・」などなど。個人的な構想では、飛鳥資料館の外にも貸し出し可能な機能を持たせたいと思ってる。これさえあれば、飛鳥めぐりが十分できるような。ちょっとだけ独創的な端末とするため、秘密結社のみなさんのお力とお知恵を拝借したい。ヨロシクオネガイシマス。
                     飛鳥地方 IT担当 水神様



【13】 「飛鳥資料館 常設展示室仮オープン!?」  (13.1.25.発行 Vol.153に掲載)

 2013年1月現在、A資料館(≒飛鳥資料館)の常設展示室は閉鎖中である。なんで?と思われるかもしれないが、奈良文化財研究所60周年記念「花開く都城文化」の片付けのためだ。アレ?この前、水神様が韓国に借用物を返却してきて終わったんじゃないの??と言われるだろうが、造作の撤去や常設の展示物の復帰作業をしなければならない。コレは意外に大変でまだまだ。以前の古い展示パネルは、アンカー(床にうつ杭みたいなもの。ねじ山がついてる)を床に打ち込み立てていた。しかし、常設展示室の内装はリニューアルしたばかり。新しくなった床に、アンカーの穴をあけるほど水神はバカではない。さらに、パネル自体も古くなっている。そこで、本格オープンまでの間、仮のパネルを作ることにしたが、これまた大変。。

 今のところ、1月末日あたりには常設展示室に入れるようになる(はず)だろうから、水神プロデュースの(仮)常設展示室をご覧いただきたい。まあ、さほど変わってはいないので、過剰な期待は禁物?だが。
 そして、来年度前半~中盤で、飛鳥資料館大改装の基本計画に基づいて、詳細をつめていき、中盤~後半で、本格工事+展示物総入れ替えで名実共にリニューアルオープンとなる。田舎の廃れた小さな資料館が、世界へ挑戦できる器へ変貌を遂げるのだ。イメージてとしては、

 改装前「飛鳥資料館(笑)」 → 改装後「飛鳥資料館!!」

 といったような変化になるだろう。たぶん我輩がもっとも楽しみにしている。

 しかし、今年度は常設展示室改装(床/壁/内装)、ロビー改装、第2回写真コンテスト、光の回廊2012-甦る古の記憶-、60周年記念展「花開く都城文化」改装+韓国担当などなど、かなりのことを手がけてきた。種々問題はあったにせよ、やって良かったなと心から思う。しかし、終わった後の「後始末」の方がどれも大変だったりしたが、それも今となっては良い経験であった。

 さて、今年は何をしようか。もうちょっと大規模/革新的な試みに挑戦してみるか。乞うご期待。


【水神日記 ~奥飛鳥男綱かけかえ神事~】
 この綱を掛けるようになったのは、いつの頃からだっただろうか。大昔に縄を村人が掛け始めたときは、「そんなもん掛けても意味ねーよ」と竜神たちはバカにしていたもんだが、毎年毎年けなげに極寒の中、朝から縄を編んで、竜神の力を借りようと神事を長年おこなっているのを眺めると、さほど興味がなくバカにしていた竜神たちも何やら村人を守ってあげたくなる気がしてくる。

 2013年1月14日。水神様は、奥飛鳥の男綱掛神事にいた。男綱を作り出すのは朝が早い。去年は女綱の撮影をし、今年は男綱の撮影。その一部始終の記録をご覧いただこう。

 ----------------漢(おとこ)達の奥飛鳥撮影の記--------------------
 5:50 水神様が寝坊。朝飯を食い逃す。
 6:30 稲渕集合。寒い。動画の撮影チームも早速凍えている。
 7:00 雪が舞い始めた。まあ、我輩にしてみれば特に驚くようなことでもない。動画の撮影の監督と「雪が積もったら、画的にはイイんですけどねー」などと話していた。縄を編みだしていき、撮影隊が本格的に動き出す。
 8:00 雪が本格的に降り始めた。栢森へ続く道へは、うっすらと雪が積もり始めた。
 9:00 稲渕もうっすらと雪化粧。こんなに美しい光景は無い。綱もどんどん出来上がっていく。けっこう早い。
10:00 雪が本格的に積もりだした。前が見えなくなってくる。我輩の力か。
稲渕豪雪中/旧男綱
11:00 撮影用に手配したクレーン車が桜井近辺で豪雪で動けなくなる。バカもん。気合で来い。JAFに救出の可否を尋ねたところ、近隣で事故80件。こりゃ無理だ。
12:00 我輩の車(水神号)が綱掛けに邪魔なようだ。さて動かすか。動かない・・。動けない。水神様は自分の車の付近の除雪開始。車の上に10cm~20cmの雪が。
水神号
ちなみに、栢森は停電。そもそも至る道は木が倒れているらしい。
13:00 命がけで石舞台まで撮影隊の車で戻る。さすがに暖かいものを食べないと死んでしまう。夢市がゲレンデのロッジみたいだ。ここまで、かなり淡々と書いているが極寒の中の撮影のため、体もかなり限界だ。我輩は、本来「水」の神様だから「雪」は若干の専門外。しかし、そうも言っていられない。こんな雪景色の貴重な映像を逃すわけにはいかない。
14:00 豪雪の極み。もう前も見えない。綱掛けは続く。地元の婆ちゃん曰く「65年生きてきて、綱掛けで雪がこんなに積もったことはない」らしい。当たり前だ。我輩がいるからな。
15:00 雪も止み始め、綱掛けがラストに近づく。綱が水を含んで重いせいか、木にひっかけるのにとても苦労しているようだ。「誰か手伝ってください~!」木の上から声が。動かせない車が綱掛けの邪魔になった水神は、何とか役に立とうと、ここぞとばかりに丘の上によじのぼる。雪で斜面がすべる。つかまるものがない。木にたどり着くと、これまた綱が重い。濡れているというより、凍っているという表現のほうが近い。さらに素手。傍目で見るよりも、この綱は重く大変だ。
16:00 ご神事も無事終了。綱掛けで頑張った水神には「みかん」がもらえた。
水神みかん
地元のおばあちゃんには、生姜湯をもらった。なんだかありがたい。初めて丸1日かけて綱掛けを見てきたわけだが、なんとも言えない暖かい気持ちになるこの場を、もう1000年ほど守ってみようかなと思った。

 こうして、我輩の力によって始まった豪雪も止み、撮影隊は凍死寸前になりながら撮影も無事?終了した。この映像は来年度編集を開始し公開するから楽しみにしていてほしい。飛鳥資料館のどこかに、「奥飛鳥の文化的景観」コーナーができるはずだ。

・・・・・・
 水神様の愛車紹介 
 【水神 号(みずがみ さけぶ)】
  ・雨が降ると雨漏りする(深刻)
  ・雪がふると動けなくなる(確実)
  ・冬は何故か毎朝、水神号だけが駐車場で凍っている(謎)



【14】 「飛鳥資料館 第3回写真コンテスト協賛御礼」
                              (13.3.22.発行 Vol.157に掲載)

 我輩はこの元寇・・原稿を執筆している今、長野県塩尻市にいる。今日は学芸の仕事ではなく、研究所の建築調査での仕事だ。だが、我輩すこぶる体調が悪い。そのせいか、長野は快晴。抜けるような青空と、心地よい風。そして、山の山上にのこる雪がとても美しい。どうも、秘密結社の追跡者が原稿の催促にきているらしい。気のせいか、秘密結社の原稿を書いているときはいつも出張しているような・・。いずれにしても平出遺跡に葬られる前に書いてしまうか。

(1) 飛鳥資料館 第3回写真コンテスト
  「神々の山 -大和三山のある風景-」協賛御礼

 飛鳥資料館のイベントとしても定着してきた写真コンテスト。早いもので今回で3回目となった。なんだかんだ言いながらも手探りではあるがここまで進んできた。我輩が展示やイベントで最も嫌う言葉は「いつもと同じ」。何かヤル気が無いような感じがする。少しでも改良していき、恒久的な改良を目指すのだ。

 「神々の山」で新たに取り組んだのは、教育機関とのコラボの足がかりを作ったこと。飛鳥に若い人の目を向けるキッカケ作りの一環だ。そのせいか、若年層の応募が目立ってきた。さらに、入選作品まで出た。これは喜ばしいことである。次回以降の構想は我輩の頭の中にしかないが、一つの区切りである第4回写真コンテストでは、もっと本格的なものとしたい。ちなみに、もう我輩は動きだしている。

 もう一つの大きな転機は、「協賛」要はプレゼントを出してくれるところが増えたこと。これは本当にうれしい。この御時勢、そうそうお金も物も出ないんだが、写真コンテストの意義と我輩の志を汲み取ってくれた方々がいらした。

 なんと、両槻会からは本皮ストラップが協賛された。ストラップ?何か甘く見られそうな副賞だが、おそらく日本で一番こだわったカメラストラップだろう。選び抜いた牛革を使用し(これがけっこうやわらかい)、金具も特注。金具のロゴには飛鳥寺の瓦(花組)と甘樫の丘をデザインに絡めたプレートをつけている。


写真コンテスト来館者投票最多得票者 特別宝物

 もちろん「Asuka Historical Museum 3rd Photo Competition」の文字も彫ってある。さらに、おさめるための専用木箱まで作ってある。この無駄な凝り具合は水神の仕業である(笑)協賛してくれたお金だ。そのお金は、みんなが自分の貴重な時間や磨きぬいたスキルを使って稼いだお金だ。その一部が、写真コンテストの協賛となってあらわれているんだ。無駄にはできないし、あっと驚く高品質なものにする必要がある。そのこだわりぬいた結果が、あのストラップだと我輩は思っている。そしてこの場を借りて、両槻会の皆様にも厚く・・熱く御礼申し上げます。

 ちなみに。この「飛鳥資料館 × 両槻会」の本皮カメラストラップは、来館者投票一位の方に送られる。3月末までが投票。果たして誰に落ちるかこうご期待。
   飛鳥資料館第3回写真コンテスト審査結果表彰式(飛鳥資料館公式サイト)



【15】 A資料館春期特別展「飛鳥寺2013」
                              (13.5.3.発行 Vol.160に掲載)

 ことしの春のA資料館の特展は「飛鳥寺」だ。飛鳥寺はナブンケンが設立のごく初期に掘った遺跡としても有名で、まあ何より日本最初の本格的寺院としても有名だ。それをテーマに据えた。

 飛鳥資料館平成25年度春期特別展「飛鳥寺2013」

 あれ?でも、まてよ。婦蛇突会(注1)の皆さんのように、年間1000回程度A資料館に遊びに来てくれる方々(注2)から言わせると、飛鳥寺の塔心礎出土品なんかは常設展示にだしているじゃないかと言うかもしれない。そうだ。まったくその通り。しかし、塔心礎の出土品の中には、そもそもボロボロで展示にはちょっと難しい・・かな・・?なんてものが沢山ある。つまり、常設展示に出していないものがけっこうあるのだ。そんな展示品があるからして、「いつもと同じじゃないの?」なーんて言わずに見に来ていただけたらと思う。

 個人的にけっこう気にいっているコーナーは、第1~3次調査のときの資料や、発掘を実際に行われた鈴木カキチ先生へのインタビューだ。水神が資料室で、当時の図面を見ているとなにやら生々しさを感じて、これを展示に加えてみようとおもったのがキッカケ。発掘したのは昭和31年から32年。こりゃすごい。例えば展示している図面をよくみると、泥やインクでよごれていたり、寸法が「尺」!で書かれていたりする。ちなみに方眼紙も3cmごとに太い線がある「尺」用の方眼紙。うーん時代が出ているな。さらに目をこらしてほしい。図面をよーーく見ると「蛙」って書いてある。はは。図面を描いていたときに、そこに蛙がいたんだな。

 年間2000回ほどA資料館に来てくれている人ならわかると思うが、大きなポスターを印刷した壁や、デジタルサイネージでの特展紹介、展示室のコーナーパネルなどなど、水神はちょっとした工夫をしているから、そのへんも見ていただけるとありがたい。

  水神辞典
  注1) 婦蛇突会
メスの蛇を棒などで突く会。変わり者が多い会でもある。沖縄のハブ退治の会が起源とも。


  注2) A資料館ミニクイズ。君は年間に何回A資料館に来ているかな??
★年間 500回程度のあなた
・・・飛鳥資料館「初心」の称号→ まだまだ初心者
★年間1000回程度のあなた
・・・飛鳥資料館「黒帯」の称号→ 一通り資料館のことはご存知
★年間2000回程度のあなた
・・・飛鳥資料館「極匠」の称号→ 資料館で知らないことは無い
★年間3000回程度のあなた
・・・飛鳥資料館「プロ・ストーカー」の称号。
別名「アルティメイト(Ultimate)」→ 学芸員よりも資料館に詳しく、僅かな間違いやミスも見逃さないプロフェッショナル。資料館「初心」者を親しみを込めて「資料館クラスメイト」と呼ぶのに対して、プロストーカーは「資料館アルティメイト」と呼ばれ恐れられている。

A資料館春のミニ展示「風景の記憶」
 今年の春には、飛鳥資料館のロビーで、イラストの原画展をしている。坂田武嗣(さかたたけつぐ)氏の描かれたイラストだ。

 ミニ展示「風景の記憶」

 彼は建築家で、趣味でいろんなイラストを描くうちに、だんだん本格的になってきて、現在では様々なところで原画展を描いたり、イラストを公開したりしている。そのイラストの対象は、お寺であったり神社であったり、史跡や公共施設など。文化財に関るネタもとても多い。そんなイラストにちょっとしたきっかけで出会い、今年の春のミニ展示となった。23点ほどだが、その鮮やかな色彩と独特のタッチに魅了されることだろう。ちなみ、このイラストは女性にとても人気(注1)。春らしい、色鮮やかな資料館のロビーを楽しんでもらえれば幸いである。

  水神辞典
  注1)坂田氏イラスト
女性に人気の文化財イラスト。水神様は、それを逆手にとり、展示したら女性(にょしょう)にモテるかも?キッカケづくりになるかな?などとの動機でミニ展示を行ったとの説もある。



【16】 展示環境の裏話 その1 「温度・湿度」
                              (13.6.14.発行 Vol.163に掲載)

 さて、今日の話題は展示の裏話というより、展示環境の裏話?である。あんまり書くと長いから、4回ぐらいのプチシリーズにしてみるか。今日は、その第1回。

 水神先生 展示環境苦闘日記
  その1 「温度・湿度」 ← 今日はココ
  その2 「光」
  その3 「生き物」
  その4 「収蔵するってこと」

 博物館や美術館で、展示されている展示物。そうしたものは長年多くの人が一生懸命後世に伝えようと努力した結果であったり、土の中から発掘されたとても弱いものであったりする。当たり前だが、展示物の状態を悪くしないために、いろんなことに気をつけなければいけないのだが、今回は「温度・湿度」の話。

 博物館・美術館なんだから、100%完璧に気をつけてるんだろう?と漠然と思われるかもしれないが、「気をつけているが、ものすごく大変」という事実だ。例えば、梅雨の時期に、大雨の中お客さんが濡れたままたくさん出入りすれば、その温度・湿度の変化はものすごいことになる。さらに言えば、業務用の空調ですら湿度に関して言えば±10%くらい許容されている製品なんてざらにある。また、建物自体が建てられた時代にもコレマタか変わるんだ。その時代ごとによって、どのように展示環境を守るのか?という流行があったりするので、現代の考え方と逆行するようなコンセプトで昔に建てられていると、さあ大変。これは、建物だけでなく展示ケースなども同様。

 仮に展示物に完璧な環境をつくったとしても、大抵の場合、人間には厳し過ぎる環境でもある。例えば、とある春の展覧会のときに「温度20℃」を展示物の保存のため徹底したが、コレは寒い。お家の冷房で「温度20℃」にする人っているかな?そうそういないだろう。お客さんから苦情殺到「寒過ぎる」。何時間もケースの前に立っているお姉さんは、とうとう痙攣して倒れてしまった。そりゃそうだ。かわいそうに。

 じゃあ、今度は湿度。これは、適した湿度が材質によってだいたい決まっている。例えば、水につけなければならないもの。木や紙は55~65%ぐらい。漆は気持ち高くても良いか。金属製品なんかは40%ぐらいにはしたいね。つまり、物によって「バラバラ」。。つまり、材質がいろんな種類がある展覧会って学芸員はけっこう大変なんやで。

 こうして書くと、なんだか、温度・湿度って大変過ぎてスゴイ大変で、守れやしないじゃないか!と思われるかもしれないが、こうした問題には手法の差はあれども、日本全国の博物館が取り組んでいる。何ゆえ手法の差が生まれるのか?と言われれば、建物の設計された時代、立地環境、展示物の特性、空調機器の性能、館の運営状態などもろもろの差が根本的にあるわけだ。例えば、国立博物館や大きな県の博物館での「正論・やり方」を、田舎で学芸員が一人でやってる小さな博物館に要求しても、それは不可能ってことだ。マンパワーも予算も違い過ぎる。逆もまたしかりだ。いずれにしても、展示物や収蔵物を守り、お客さんが不快に思わない環境のバランスを取らなければいけない。

 水神様はどうしてんのか?ちょっと図を見て欲しい。

概念図

 なんだこの図は?水神様の考え方をあらわしている。一番外の枠が「外部」ですな。ようするに館の外。で、内側に行けば行くほど博物館のなかに入って、最後は「展示物」になる。水神様は、自然に逆らうようなことはしない。だが、流されるままはダメだ。自然な状態から、展示物までの環境をゆるい変化にして、だんだん理想的に近い状態を目指している。逆に言えば、季節が展示環境に適していれば、特に何もしなくて大丈夫なわけだ。この緩さ大事。何故か?展示物のストレスで良くないのは「急激な変化」である。人間も同様やね。とある博物館で「展示ケースの中、ガンガン乾かしてますよっ!30%以下です!!」といわれた。そりゃスゴイ。かなりお金かけてるな。だけど、展示室は湿気て70%近いで。。コレはアカン。ケースから出した瞬間に、展示物にすごいストレスがかかると思う。永久にそこにあるなら、かまわないけど。

 この急激な変化をつけないこと。そして、長続きする仕組み。これは、展示環境を守るという観点で、水神様が全てにおいて気を配っていることでもある。気合が入りすぎて三日坊主は論外だし、ほったらかしはさらに論外。逆に展示物そのものにしか目がいかなくて、総合的なバランスを欠いていても論外。基本中の基本やけど、けっこう大変な温湿度。本格的な梅雨前の、とある学芸員のつぶやき。
                   奥飛鳥資料館 学芸員 水神 様



【17】 展示環境の裏話 その2 「光」
                              (13.7.26.発行 Vol.166に掲載)
「水神先生 展示環境苦闘日記」

 その1 「温度・湿度」
 その2 「光」  ← 今日はココ
 その3 「生き物」
 その4 「収蔵するってこと」

 さて、水神先生の展示環境シリーズ第2回。今日は光についての話だ。水神様は照明にはけっこうこだわる。
 ちょっとだけ昔話。

 かつてキトラ古墳の展覧会があった。この展覧会は日本全国各地からお客様がおこしになる。水神はこうした人たちに徹底的に解説をして日々をすごしていた。ある日、車椅子を押されて、かなり高齢のおばあさんが壁画を見にきた。年のせいか目も耳もあまり良くないようだ。ご家族の方によると、本人がどうしても見たいというので、みんなで無理して来たらしい。よっしゃ、ばあちゃん。水神がわかりやすく解説してやるぜ。水神がおばあちゃんの車椅子の目線に合わせてかがんだ時、すさまじい失態に気がついた。

 おばあちゃんの車椅子の目線からだと、どの方向から見ても、展示ケースで乱反射した光が、壁画を覆う透明のカバーを光らせて壁画が見えない・・。さらに、見える角度が浅過ぎて、何が書いてあるかさっぱり見えない。

 水神は、カタログを持ってきて、必死で説明し、なんとかわかってもらおうと工夫をこらしたが、見えないものは見えない。大の大人が何人も展覧会に関わったはずなのに、誰一人車椅子の人の見易さを考えてはいなかった。さらに、光の反射なんて考えることすらしていなかった。

 それからは、「光」は相当考えるようになった。もう二度と同じようなことを犯してはならない。研究者はいつでも見れるかもしれないが、遠方の体が弱い人はそうはいかない。一度きりのチャンスかもしれないのだ。

 で、この3年間かなり改めてきたつもりだ。パネルを読もうとすると、照明が影になる。LEDの質が悪く紫外線が出ている。美術用照明と事務用照明がごちゃごちゃ。展示物に対する照度オーバー。過剰な照明で目が痛いところ。ビデオルームはモニターに光があたって見え難い。とにかく、本当に大変だった。本当にキリがない。改善に改善を重ねた。そして、今の照明にたどり着いている。まだまだ、改善するところはあるけどね。

 昔は美術用LEDなんて、高価で全く手がとどかない代物であったが、技術の進歩が進み、飛鳥資料館でも導入できるような価格になった。現在のLEDは、個別またはグループで調光が可能である。さまざまな展示物がある資料館にはもってこいだ。そして、常設展示室に入ったら天井を見上げてみて欲しい。縦に走るボックスの中にLEDの機器が見えるはずだ。ボックスを走らせて、照明器具が目立たないように仕込んである。もちろん、移動も調整も可能だ。物によって細かく照度を調整しているつもりだが、まだまだだ。

 そして今は、外部の光を調整する作業も合わせて行っている。外部の明るい光からだんだん内部に行くにしたがって暗くなり、目が慣れてきて展示物が見える。目にも作品にも快適な照明環境。さらに季節によっても調光。そんな光環境の博物館にしたいなと考えている水神であった。まだまだ道半ば。
                   奥飛鳥資料館 学芸員 水神 様



【18】 展覧会借用作業 ~イケメン学芸員の戦場心得~
                              (13.9.6.発行 Vol.169に掲載)

 先日、秘密結社の事務局とのメールで気になったこと。
 我輩のメルマガの検索ワードで「借用作業」「博物館学学芸員」「展覧会最も気を付けること」なんていうのがあるらしい。つまり、どこかで働いている学芸員が調べてるんだ。え?プロフェッションの学芸員なのに、何で?しかもネット?で調べてるの??と、秘密結社の諸君は思うのだろう。

 はっきり言って、日本全国の小さな博物館においての人事は異常なところが多過ぎる。我輩が大統領にでもなったら即改めてやる。近い将来みておけ。さて、現状では小さな博物館だと、人事がグルグル適当にまわって、博物館で全く働いたこともない、かつ専門知識も全く無い元・高校の先生とかが平気で担当になってしまうところもある。本人にも博物館にも収蔵資料にも大変不幸なことだ。館の先輩などがいればまだいいが、頼るべき人も全くいないような状態で右往左往している学芸員さんの苦労が目に浮かぶ。

 そこで!シリーズ物の途中ではあるが、我輩なりの借用段取りを書いてみようと思う。秘密結社の人は「へー」と思うだけかもしれんが、世の中の困った学芸員さんのタメになれば。もちろん分野や館の独特のやりかたもあるだろうから、そこは各自判断を。やや長文だが、水神方式を叩き込んでやるから遅れるな!

【心得その1】作戦立案(展示計画を定める)
 まず、どんな展覧会/イベントを行うか、計画書をたてろッ!いつ・どこで・どんな・誰に向けた!など、わかりやすい計画をたてろ!あんまり、ムダに長々と書いても、まず読んでもらえない。必要な情報を端的に書けッ!

 ・コンセプト
 ・会期
 ・展示資料
 ・展示場所
 ・館の基本的な情報
 ・警備状況
 ・その他、先方が必要とする情報

 とりあえずは、まあこんなところだッ。これを決めたら、サッサと内輪で書類をまわせ!このコンセプトが、展覧会の憲法みたいなものになるから、しっかり考えろ!子供向けの展覧会のはずなのに、難解極まりない展示になってないか?若者向けオシャレ展覧会のはずなのにダサくなってないか?マニアをうならせる展覧会のはずなのに、誰でも知ってる無難なことしか伝えれてないんじゃないか?もし展示を立ち上げる途中に疑問に思ったらココに戻れ!

【心得その2】攻撃目標の決定(借用物の選択)
 さあココからが借用の流れだ!心してついて来い。よっぽど大きい博物館で、館蔵品だけで十分極まりない展示ができる所なら問題ないが、大抵の博物館は人様から大なり小なり「物」をお借りして展示を立ち上げるはずだ!人様が長く大事に保管してきたものをお借りするということを忘れるな!

 お借りさせていただく箱入りの姫様(あえてここから、借用物を姫様と呼ばせていただく)を決めたら、所蔵先に連絡しやがれ!電話は丁寧にはっきりと。まず、初対面の場合は電話+FAX(展示計画)で概要を伝え、「姫様」をお借りできるかを確かめろ。他の輩が先に展覧会で抑えていたり、貸し出しを渋られたら、漢(おとこ)らしく引き下がれ!「展覧会」という戦には、勇気ある撤退も必要だ。

 つまりだ。姫様という城を占領できるか否かは早いもの勝ちということだッ。ノロノロしてると、姫様を奪われるぞ!つまり、ドタバタで展覧を開くと、先方にも嫌がられるし、先に姫様が抑えられている場合がある!先手必勝!

【心得その3】情報収集/索敵(借用資料の調査)
 姫様に彼氏がいないからといって、いきなり結婚できると思うなッ!軍事作戦に必要なのは、「十分な情報収集と索敵」であることを忘れるな。まず、先方の学芸員さんに予定を窺え!電話と必ずメールもしくはFAXなど文字情報で残るもので約束すること。我々は「お借りする」立場である。たとえ、先方が勘違いしていても、姫様をお借りする我々は口頭での行き違いなどがあれば先方に譲るしかない!理不尽でも歯を食いしばれ!そんなことにならないため、丁寧な電話+メールでの確認忘れるな!

 そして、日程調整はコチラの予定を押し付けるなバカモノ!貴様はどれだけ偉いんだ!姫様たちのご予定に、コチラがあわせるのだ。

 下見では、たっぷり姫様を視姦してこい!イカれた研究者にありがちだが、姫様の学術的な興味に我を忘れてしまい、こともあろうに、姫様に勝手にベタベタ触る輩がいる!現段階で姫様にお手を触れてよいのは、所蔵している組織の人だけだッ!忘れるな!しかし、姫様の何をたっぷり視ればよいのか?我輩たちは、姫様を安全に運び、展示しなければならない。つまり

 ・寸法などの基本情報(指定品などではないかも忘れるな)
 ・破損箇所/クラック等は無いか(危ない場合はモチロン借用中止)
 ・何か引っかかりやすい形状のところが無いか
 ・姫様を管理/運搬する上で何か気をつけることが無いか
 ・修復/接合(接着)をおこなった履歴などの有無(接着面はけっこう外れやすい)
 ・付属品/専用ケースなどはあるのか
 ・その他、姫様独特の事情は無いか

 を、しっかり確認して来いッ!これまた、記録方法にも気をつけろ!多いのが、調書(手書きの姫様観察記録)のみ。貴様は限られた時間でどれだけ記録できるんだ?そんなヨボヨボの腑抜けな線で記録しても全くわからん!だから、デジカメで記録だ!カメラで記録といえども甘く見るな!フラッシュをたかなくてもOKで、手ブレ補正し、高精細に取れるデジカメを選んでおけええ!ミラーレスのいいやつでも10万以内のはずだ。そして写真でわかりにくい情報を、調書や文字で補うのだ!

 ココで貴様ら新兵が戦場で生き残るための秘結を列記する!

 ・勝手にカメラのフラッシュたくな(完全なマナー違反)
 ・姫様を真上から撮らない(カメラを落としたら?直撃するぜ?厳しいところは徹底されている)
 ・調書は写真で表現できないことを(写真だけ・調書だけはダメ)
 ・ネクタイ/腕時計/名刺入れとか、姫様に当たりそうなものは体から離す
 ・マジックやペンなど、姫様に染みをつくりかねないもの持たない(えんぴつ類がベスト)
 ・姫様に勝手に触らない
 ・先方の指示に従う(マスクや手袋の装着など。もちろん事前にこちらで用意)
 ・コンベックスなどは最新の注意を。柔らかい布製のメジャーなどのほうが場合によっては安心

【心得その4】兵站を整える(正式依頼 + 運搬車両 + 保険の設定)
  姫様のことを十分に知ったら、正式依頼だ。婚約のようなものだ。貴様達の一番偉い人(大抵は)の名義で正式な書類を作成し、先方に送れ!書類の宛名などは、先方によく確認しておけ!ここまで、問題が無ければ基本的にOKの連絡が来るはずだ!姫様に「文化財指定」されていると、組織/地域ごとに手間と時間がグッと増える場合がある!!よく確認しておけ!!間に合わなくなるぞ!

 運ぶ車両にも気をつけろッ!もちろん美術専用車両だ。博物館によっては、特定の専門の会社を指定してくる場合があるから忘れるな。春や秋など、展覧会が目白押しの時は、美術専用車両も手薄になる!!早めの手配を忘れるなぁぁ!!最悪、ただの引越し屋が来るような業者もいる。そんなところは、即ブラックリスト。ぶった切れ!

 姫様に万が一のことがあるかもしれない!最後は、大人の解決「お金」だ。大抵の博物館は、姫様それぞれの評価額を持っているハズだ!それで保険をかければヨイ。問題は、小さな博物館で「は?評価・・額・・・ですか・・?」などと聞き返してくるところだ!最悪、修理するに必要な額となるが、これは先方とよく話し合っておけ!

 それと、方々で物を借りながら移動する場合は、先方の予定との調整が難解になる!特定の日がOKかそうでないか?ではなく、一定の幅を持って先方の予定を聞き、他の館の予定と調整ダ!運搬チームとの調整も忘れるな!大雨・大雪・事故・渋滞なんでも対応できるようにしておけ!!我輩は、大雪で美専車両が来れなかった経験がアルッ!

【心得その5】敵地上陸作戦(借用/輸送)
 さあ。今日は姫様をお借りする日だ。これはもう「お嬢さんを僕に下さい」と言いに行くレベルの上陸作戦でアル!からして、服装などにもそれなりに小奇麗にしておけ。もちろん、管理方法や注意点など、再度の確認も忘れるな。借用か返却のときにでも、手土産などあると小慣れた感じだ!美術梱包の作業にも気をくばれ!それと、資料調査をしたからと言って記録をおこたるなッ!調査から借用の日までに、変化していることがあるかもしれない!我輩は、某博物館での借用で、僅かの間に姫様が激変していて、腰を抜かした経験もある。そして、「借用書」と「調書のコピー」などを先方にお渡しして帰ってコイ!

 ココで有りがちなミス!学芸の人数が少くて忙しいからといって、資料調査の時と違う人間が借用に来るのはマナー違反。というか事故のもとだッ!婚約と結婚式で人が違うって変だろう?どれだけ引き継げているんだ?どうしてもという時は、キッチリ引き継ぎ、先方にも必ず一言お伝えしろ!

 我輩が見た例で、もっとも狂っていたところは、担当が違うばかりでなく

 「ウチって、今日なにを借りるんでしたっけ?」

 オマエラ。二度と来なくていい。じゃ何か?「今日、僕って誰と結婚するんでしたっけ?」と言って、姫様をもらいにいくのか?

 ともあれ、輸送にも気を配れ!特に冬など空気が乾燥し過ぎた時など、車両や梱包方法にも工夫が必要だ!木製品や紙などに負担がかけるな!反り返えってしまっては手後れだ!

【心得その6】激戦地(展示立ち上げ作業 +会期中)
 さあ、姫様を館内にお運びもうしあげるぞ!その後、収蔵庫などで必ず必ず姫様に問題が無いかチェックしろ!運搬が最もリスクが高い。もし姫様が輸送中に壊れていたら?確認しないまま会期を迎えるまで収蔵庫にあったとしたら?その全責任は貴様の館になるんだぜ?面倒でも・どんなに立ち上げ作業が忙しくても必ずチェックはおこたるな!

 会期中は、指定された姫様の管理方法にベストをつくせ!担当となれば、いつ何がおこっても対応できる、行動力/胆力/気合/愛情を維持しておけ!空調、温度/湿度、警備状況、照度、目視点検・・・・戦場で二階級特進をしたくなければ気を抜くな!

【心得その7】内地へ帰還(返却作業)
 ここまで来れば、長い戦も終わりが見えてきた。が。最も緊張するのもこの瞬間である。長らく連れ添ったハニーともお別れだ。これだけ心得を叩き込んできたから、何をすべきかはわかるはずだ。しかし!最後に列挙する!

 1.返却日程の調整/連絡 → 2.搬出前の状態確認/記録 → 3.梱包/輸送 → 4.返却作業(状態確認) → 5.借用書の受け取り

 こうして書いてみたが、4の時にはノートPCを用意しておけ。印刷した紙では、姫様の詳細がよくわからない。必要があればPCの画面で確認だ!こうして、確認が終わり借用書を返してもらった瞬間に全てが終わったこととなる。

 これらはあくまで、我輩が学び、自分なりに改良したやり方でしかない。もちろん先方に合わせてもっと厳しい借用もあった。分野や館によってお作法が異なるところもモチロンあるだろう。だが、そんなに極端にかけ離れたことにもなっていないと思う。参考にしつつ、各々の状況によってカスタマイズして、展覧会という戦場を生き抜いて欲しい。

 最後に。小さな博物館の学芸員諸君。君達の理不尽やツライことは十二分にわかっている。どこもおんなじだ。だが、決して負けないで欲しい。展覧会を楽しみに見に来てくれるお客さんのために、精一杯頑張っていただきたい。その先には必ず違う世界が待っているから。

                  小さな博物館の学芸 水神 様より





【19】 冬のキトラ展                  (14.2.7.発行 Vol.181に掲載)

 2014年1月26日(日)午後4:30。キトラ古墳壁画発見30周年記念「玄武・白虎」展が無事終了した。キトラ古墳壁画展としては初めての冬の開催。また、直後の春に開催予定の東京国立博物館を控えての開催など、これまでには無いイレギュラーぞろいのキトラ展となった。

  キトラ展規模の展覧会となると制約が非常に多い。何があるかわからない。過大とも思える対処をしてかからなければならない。たとえば、わかりやすい解説パネル類やギャラリートークを頻繁に行ってほしいと来館者が思っているとする(通常は思うだろうけど)。だが、来館者が殺到する長蛇の列が発生する展覧会では、ギャラリートークやじっくり読みたくなる解説パネルは、相矛盾する要素だ。警備的な観点から考えるとタブーにもなりうる。これまでのキトラ展では、長蛇の列の発生+交通渋滞発生から、満足度などさておき、いかに早く来館者をさばくか?ということが主眼であったように思う(批判ではなく、これはこれで当時の状況を考えると正しい判断ではあると思う。とはいえ、こっそり空いた時間を見計らってキトラ展でもギャラリートークは繰り返してきたが)。

 今年のキトラ展も大渋滞が発生するか?という懸念が一部から出されたが、水神様的には到底渋滞するとは思えず、思い切って常設展を全部撤去しキトラ古墳コーナーへと様変わりさせることを決断した。簡単なように思うかもしれないけど、そもそも来る人が「少ない」という判断を決めることからすでに大変なんよ。さらに秋期展の撤収をしながら、常設展の展示品+パネルを全部撤去(短い時間で)、そしてキトラ展用の造作と展示を設営(短い時間・少ない人数/予算で)・・そして片づけて復旧しながら冬の展覧会の立ち上げって、尋常ではない作業量なんでっせ。援軍も無ければ、何の内部的な評価も手当も無ければ、休みなんかも当然ない。

 だが、あえて選んだ道がイバラの道でも悔いはない。これまで学芸として学んだことのすべてをキトラ展にぶつけるのだ。遠方から来られるお客さんや、楽しみにされてる方々をがっかりさせるようなことがあってはならない。導線、照明バランス、展示空間、展示物の高さ、解説パネルの原稿、温湿度、障害者対策、ギャラリートークの話しかけ方・・少なくとも自分がこれまでに思いついてきたことは完全におこなってきたつもりだ。社会一般から見ると100点ではないかもしれないが、与えられた人数・時間・予算・もろもろの背景を考えると2000億万点ぐらい与えたい気分だ。積極的にいい展示をつくるために関わってくれた内外の関係者にも感謝してもしきれない。本当にありがとう。少なくとも水神は、過去最高のキトラ展だったと思っている。

 予想の通り?キトラ展としては人数はかなり少なかったが、文化施設としてはちょうどよい込み具合であったように思う。多すぎると、暑いし、待ち時間が長く、鑑賞時間が短い。少なすぎると、静かすぎてわずかな話し声も出してはダメような気分になる(博物館や美術館で、一緒に行った人ともろもろ感想を述べながら作品を見たいのは水神だけだろうか?)。また、アンケートを見る限りは来館者の満足度もおおむね良好で、じっくり見たい人には最適であったのではないだろうか。キトラの四神や十二支が飛鳥資料館で展示されることは、おそらくもう無いだろう。しかし、次回は天文図がいつの日か飛鳥資料館で初めてのお披露目となるだろう。楽しみにしていただきたい。

 はてさて、キトラ展の撤収作業と常設展への復旧作業がまだまだだ。頑張らねば。

 余談
 先日、東京でキトラ展を展示する某東京の国立博物館の研究者様やら学芸の方々が続々とお越しになられた。飛鳥での運用状況を参考にされるらしい。かなり具体的なところで水神がもろもろ決定を下していたせいか、先方様から質問が殺到した。相手は、国内最高峰の博物館の人間だ。ごまかしは通用しない。一通り質問に対し答え終わり、ある方に「よく考えられてますね。いい展示です。」と言われた。まあ、お世辞かもしれないが、こんな片田舎の小さな博物館の展示でも負けてねぇぞ!て所を見せれたんじゃないかなと個人的には満足している。



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