赤兄 |
隅田に着いたぞ。 船はどこだ。 |
比羅夫 |
はっ。 この先に用意させてございます。 さぁ、皇子さまからどうぞ。 |
大海人皇子
(以下、大海人) |
その必要はないぞ! |
赤兄 |
お、大海人皇子さま! なんでここに…!? |
斉明天皇
(以下、斉明) |
お前たちの到着が遅いから、迎えに来てあげたわよ! |
赤兄 |
天皇(すめらみこと)! 中大兄さまも! これは、遠路はるばる恐れ入ります。 |
讃良 |
お父さま! 紀の湯からここまでって、めちゃくちゃ遠いんじゃないの? |
中大兄皇子
(以下、中大兄) |
なに、たいしたことはないぞ。南紀白浜空港から関空まで政府専用機で飛んで、そこからお召し列車で一直線だったからな。 |
中臣鎌足
(以下、鎌足) |
ちなみに、わたくしめは、皇族ではないので乗せてもらえず、國襲どのと二人、馬をガンガン飛ばしてきましたぞ。 |
有間 |
やっぱり、讃良ちゃんの言うとおり、皇太子(ひつぎのみこ)どののワナだったか! |
中大兄 |
さ~て。なんのことかな♪ さぁ天皇、さっそくお取り調べを。 |
斉明 |
有間。なぜ、謀叛など企んだ? |
有間 |
知ってるくせに、しらじらしい… すべて赤兄のシナリオなんだろ?
天の神様はちゃんと見てるんだぞ! |
大海人 |
天皇に対して無礼だぞ。 口を慎め。 |
斉明 |
かまわぬ。 有間、他に言いたいことがあるなら、今のうちよ。 |
有間 |
赤兄が、「天皇のやりたい放題をこのまま放っておいたら政はめちゃくちゃになるから、今のうちにブッ潰そうぜ」って、僕に挙兵するよう誘惑してきたんじゃないか。
まんまとトラップにかかったのは不覚だったよ。
それと、僕的には、両槻宮造営が悪政ナンバーワンだと思うんだけど、赤兄の挙げたワースト3にランクインしてなかったのが残念だよ。 |
造宮丁 その3 |
(ひそひそ)日本書紀の記録より、ベラベラしゃべってないか? |
造宮丁 その4 |
(ひそひそ)あぁ、書紀では、もっとクールな対応だったはずなのにな。 |
大海人 |
あ、ゴメン; 全部書くと長いから、省略させちゃった♪
でも、うちの忍壁、なかなかカッコよくまとめてくれただろ? |
斉明 |
そこ! 私語は許さないわよ。
で、有間。両槻宮の、いったい何がいけないというの? |
有間 |
だって、平成の飛鳥マニアの間では、両槻宮はどこにあったのか、そもそも何のために作ったのか…とか、喧々諤々の議論沸騰だというじゃないか。
そんな、中途半端に皆を悩ませるだけのミステリーネタを、国家財政を圧迫してまで後世に残すなよ。 |
斉明 |
ふん。 だから、お前は甘いのよ。
両槻宮の名が残ったからこそ、飛鳥マニアが集う、“両槻会”なるすばらしいサークルができたんじゃないの。
先月も、なにやら多武峰あたりをうろついて宮の所在地を探していたようだけどね。ほっほっ♪
とにかく、そやつらが、飛鳥がいかにステキなところかを全国にアピールしてくれれば、我らも再び脚光を浴びるかもしれないわよ。 |
鎌足 |
おそれながら、天皇さま。時間がおしています。速やかに、判決を。 |
中大兄 |
では、判決を申し渡す。(判決文を読み上げる)
全員処刑している時間はないから、二人は助けてやろう。
えーっと、 だ・れ・に・し・よ・う・か・な♪
はい、守君大石くん。キミ、セーフね。天皇の情けをもって、流罪に減免。 |
守君大石 |
はは~っ。おそれいりますぅ♪ |
中大兄 |
もうひとり。 か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り♪
はい、坂合部連藥くん。ラッキーだな。キミも助かったぞ。 |
坂合部連藥 |
ははっ! 有難き幸せ♪ |
コノシロ |
な、なぜ、コイツらだけ刑が軽いんだ!! |
守君大石 |
ふふふ… 我々は、流罪といっても、形だけ。
すぐに、呼び戻してもらえるんだもんねー♪ |
有間 |
やはり、お前たち二人は、赤兄に丸め込まれていたんだな! |
坂合部連藥 |
初めから、ぐるぐる巻きですよ♪ |
鎌足 |
中大兄さま。 とにかく、刑の執行を。 |
中大兄 |
よし。 では、共謀者・塩屋連コノシロからだ。 國襲(くにそ)! |
丹比小澤連國襲
(以下、國襲) |
はっ! ようやく、出番が来ましたな。待ちくたびれましたよ。
では、とっとといきますぞ。 御免!
(刀を振り上げる) |
コノシロ |
ちょっと、待ってくれ! |
中大兄 |
なんだ。 往生際が悪いぞ。 |
コノシロ |
お願いです… どうか、この右手で、国の宝器を作らせてはくださらんか… |
中大兄 |
何をわけのわからぬことを言っておる; |
大海人 |
コノシロちゃん… 言ってる意味がよくわからないけど、なんだかカッコいいなぁ。 |
國襲 |
中大兄さま。いかがいたしますか。 |
中大兄 |
かまわん、斬れ! |
國襲 |
では、今度こそ、御免! (コノシロの首を斬る) |
中大兄 |
続いて、舎人の新田部連米麻呂! |
米麻呂 |
有間さま… 赤兄の企みを見抜けず、どうもすいませんでしたー! さようなら~! |
國襲 |
ハイ、さよなら! (米麻呂の首を斬る) |
判事 |
あの~。 わたくしはいったい、どのようなお咎めを受けるのでしょうか… |
中大兄 |
あぁ、さっき起訴状を読み上げた功により、無罪だ。 |
大海人 |
兄上! そんなんで、いいんですか…; |
中大兄 |
だって、めんどくさいもん。時間ないし。 |
鎌足 |
その通りですよ。早くしないと電車が来てしまいます。 |
有間 |
流れから行くと、次は僕だよね… |
中大兄 |
わかってるじゃないか。 |
鎌足 |
ただし、皇子さまのお体を刀で傷つけることはできません。
この紐で首を括っていただきます。 さぁ、どうぞ。 |
有間 |
“どうぞ“って言われても…
あっ! ここで死んじゃったら、世に名高い、浜松が枝の名歌が詠めないじゃん!
あの舞台は、磐代っていう設定になってるのに。 |
大海人 |
お前、自分で“名歌”とか言うなよ… |
斉明 |
いいわ。 最後に、お前の歌を聞いてあげましょう。
ここを磐代だと思って、一首お詠みなさい。 |
中大兄 |
よし、制限時間は10秒だ。 大海人、カウントダウンしろ。 |
大海人 |
はい、兄上。では、いくぞ、有間! じゅーう、きゅーう、はーち、… |
有間 |
めちゃくちゃなこと言うなよ!
えーっと… よし、できたぞ!
磐代の 浜松が枝を 引き結び ま幸くあらば また還り見む |
小足媛 |
あぁ、なんてことなの、有間!
天皇(すめらみこと)さま、どうか命だけはお助けを…! |
讃良 |
お父さま、おばあさま! 有間さまを、殺さないでー! |
有間 |
母上、讃良ちゃん。 国の平和のため、極刑は覚悟の上です。 |
守君大石 |
あれ? さっきまで、しらばっくれてたくせに… |
坂合部連藥 |
言ってることがおかしくないですかぁ? |
有間 |
(すでに二人のことは無視)
あの世からいつも見守っていますよ。
そして、天皇と中大兄は呪ってやりますよ~。
赤兄も、すぐに、迎えにきてやるからな~~ 待ってろよ~~!
(首を括って自害) |
チーム有間一同 |
有間さまーー!! |
中大兄 |
ちょっと可哀相なことをしたが、これも国を治めるため。
皆の者、大儀であった。 では、解散!! チーム紀の湯は、温泉に戻るぞ。 |
斉明 |
中大兄、私はこのまま飛鳥に戻るわよ。 |
中大兄 |
え、母上、なぜですか? |
斉明 |
留守官(とどまりまもるつかさ)の赤兄までこんなところに来てしまって、都はもぬけの殻じゃないの。
赤兄! この失態と、私の執政への批判については、あとで必ず詮議するわよ! |
赤兄 |
そ、そんな! あれは、策略なんですってばぁ~; |
斉明 |
それに、今宵は有間邸で宴の用意をさせているのよ。特別コースを予約してあるの。
ともに祝杯を挙げたい者は、ついてらっしゃい!
オホホホホ…!! |