語部由香女 |
時は大宝元(701)年春正月一日、文武天皇は大極殿に出御され文武百官や新羅など近隣諸国の使者の拝賀を受けられます。今年の儀式は特別に盛大で、「文物の儀、ここに備われり」というほどのスペシャルイベントになるだろうと噂されています。
その朝、藤原京右京八条五坊の両津部槻麻呂の居宅では、何やら怪しげな人物の来訪がありました。 |
忍部伊賀麻呂
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両津部槻麻呂はいるかッ? 右大臣藤原不比等さまの遣いである! |
槻麻呂 |
右大臣不比等さまの!?
あの…、ワタクシ、何かヤバいことでもやらかしましたか?; |
伊賀麻呂 |
そうではない;不比等さまより直々の命だ。
実はな、近々ここより北方の地へ遷都を考えておられる。 |
槻麻呂 |
は?ついこの前、飛鳥からこの藤原へ遷ってきたばかりじゃないですか…それに、北方っていったいどこへ? |
伊賀麻呂 |
そのようなこと、お前ふぜいの知ったことではないわッ!
とにかく、都を別の地へ遷すには、天皇や上皇を納得させる根拠がなければならん。まぁ持統のバァさん…いや、ごほん、上皇さまはおそらく先が短いゆえよいのだが、何事も企画を提出するには理由がいる。
この藤原の地が都としていかに不便であるか、問題点は多々あるはずだ。お前もここに住む一人の役人として、多少は感じておろう。 |
槻麻呂 |
はぁ、まぁそれは… |
伊賀麻呂 |
そこでだ。槻麻呂、お前にはこの藤原京を実際に歩いて調査し、都としての機能を妨げるファクターを探し出し、レポートするようにとのお達しだ。 |
槻麻呂 |
えぇ~~!!要するに、藤原京へのダメ出しをしろということですか! |
伊賀麻呂 |
ミもフタもない言い方をすれば、まぁそういうことだ。
とにかくこれは密命だからな。他言無用だぞ!
もししゃべったらどうなるか…わかってるな(睨) |
槻麻呂 |
ひぇ~~!;わ、わかりました!秘密のミッションですね!
決して誰にも言いません! |
伊賀麻呂 |
大宝元年元日の朝賀の儀の後、右大臣さまが直々に調査報告をお聞きになるそうだ。
そなたも、この都の役人ゆえ、地理や諸事情は把握しているだろうが、不比等さまは念のためガイドをつけてくださったぞ。風雨止さん! |
風雨止 |
ちわーっす。不比等さまにお仕えする! いや! 中務省の風雨止です。これから槻麻呂さんのボディガード兼見張り兼ガイド役としてご一緒します。
よろしく♪ |
槻麻呂 |
えぇ~! 陰陽寮の天文博士さまじゃないですか! 私より、ずっとお偉方ではないですか! 構わないんですか? |
伊賀麻呂 |
風雨止さんは、ガイドとしてもスペシャリストだからね。大極殿の裏、耳成山の近くに住んでいるから。畦道の1本にいたるまで、知らない道はないですよ! |
槻麻呂 |
じゃぁ、風雨止さんにこのミッションやらせりゃよかったじゃないですか! |
伊賀麻呂 |
そんなこと知るか!
というわけで、私はこれで失礼する。風雨止さん、よろしく頼みますぞ。
槻麻呂、しっかりとミッションを全うするのだぞ! (去る) |
槻麻呂 |
なんだあいつ! 不比等様の権力を笠に着て!えらそうな奴だ! |
風雨止 |
まあまあ! 無視しとけば良いさ。
さて、歩き始める前に、藤原京の概要を話しておきますか。 |
~解説~ |
風雨止 |
では、出発しましょう。私はボディーガードも兼務ということですが、道中の安全や体調管理は基本的に自己責任でお願いします。一応、保険には入ってますけどね。 |
槻麻呂 |
それは、至れり尽くせりだなぁ。しかもこんな立派な資料まで用意してくれて |
風雨止 |
参加者の皆さんも、槻麻呂になったつもりで歩いてくださいね! |