両槻会(ふたつきかい)は、飛鳥が好きならどなたでも参加出来る隔月の定例会です。 手作りの講演会・勉強会・ウォーキングなどの企画満載です。参加者募集中♪


第51回定例会


飛鳥光の回廊2015
 飛鳥資料館会場 地上絵関連資料





この色の文字はリンクしています。
第51回定例会 事務局作成資料 第51回定例会 レポート

2015年8月29・30日

 キトラ古墳石槨天井に天文図が描かれていたことは、ご存知の通りです。
 今回の飛鳥光の回廊 飛鳥資料館会場では、この天文図を元にした地上絵を作成することにしました。
 須弥山石を天空の中心と見立てて、天文図の南側を中心にしたデザインを作るのですが、南方七宿と呼ばれる星宿(星座)群を選びました。これは、朱雀に見立てられる星々です。


 飛鳥には、今まで二つの壁画古墳が発見されていますが、両古墳共に天井に星宿図が描かれています。高松塚古墳のものはデフォルメが進み、天文図としての精密さには欠けているように思えますが、一方のキトラ古墳のものは一部に間違いが有るようですが大変精密な天文図になっています。現存する精密な天文図としては、世界最古ともいわれ、大きな注目を集めています。

 キトラ古墳天文図の直径は、僅か64cmです。この中に4つの円と350個ほどの星が描かれています。
 4つの円は、太陽の軌道や星の運行を示す「黄道」や「内規」、「外規」、「天の赤道」が描かれました。この中に、星々が金箔で表現されています。星は朱色の線で結ばれ、「星官」、いわゆる星座(星宿)を表しています。

 ここで、中国の天文図を見てみましょう。
 中国の天文図は、今から2,500年ほど前に成立した星座の体系で、西洋などの影響を全く受けずに独自に発達したとされているようです。

 星座は大きく分けて2つのグループがあります。
 第1のグループは 「二十八宿」と呼ばれる天の赤道に沿って作られた28の星座(星宿)で、天文学や星占いに重要な役割をもっているため歴史も古く、紀元前8~6世紀頃には原型が成立していたようです。

 第2のグループは、古代中国の社会身分制度がそのまま反映された250あまりの星座(星宿)たちで、北極星を天の皇帝とし、そこから皇族、官僚、軍隊、庶民といった星座が配列され、天の北極から遠ざかるほど庶民的な星座になります。

 こちらのグループは紀元前5~4世紀頃に原形が成立したとされています。
 唐の文人である司馬貞は、「案ずるに天文に五官あり。官とは星官なり。星座に尊卑あるは人の官曹に列位あるが如し。故に星官という。 」と書いています。

 紀元後3世紀になり、三国時代の呉から晋の時代に太史令をつとめた陳卓は、それまで知られていた星座を整理し、283星座、1464星の星図を作りました。これにより中国星座の体系は完成し、それ以降は星の数に若干数の前後はあるものの基本的に最後までこの体系が守られます。
 そして明時代末頃になると、西洋からの宣教師たちの手により、中国からは見えない南天の星座が追加されました。18世紀中頃に編纂された星表『欽定儀象考成』には、 南天の星座が23記載されています。

二十八宿
 私たちには馴染みのある西洋の黄道12星座にあたるのが、中国の星座である「二十八宿」です。これは天の赤道付近に不均等区分され作られた28の星座で、月が天球上を約27.3日で一周するのに対応して、月が1日1宿ずつ28日かけて星座に宿ると考えたのです。
 天空の中で月の通り道を、特に「白道」と言います。古代中国では、この白道に接する星座を「星宿」と呼びました。

 二十八宿は太陰太陽暦や星占術はもちろん、天球上での星の位置を表わすのにも使われました。各宿に「距星」と呼ばれる経度基準の星を設け、距星とその宿の中にある星との赤経差によりその位置を表現したものだそうです。また、二十八宿は東西南北の四方位七星座ずつに分けられ、 それぞれに色や動物があてはめられました。

二十八宿一覧
四神 星宿名 和訳名 現代星座での概略位置 距星



宿



角 かく スボシ 乙女座中央部 おとめ座α(スピカ)
亢 こう アミボシ 乙女座東部 おとめ座κ
氏 てい トモボシ 天秤座 てんびん座α
房 ぼう ソヒボシ 蠍座頭部 さそり座π
心 しん ナカゴボシ 蠍座中央部 さそり座σ(アル・ニヤト)
尾 び アシタレボシ 蠍座尾部 さそり座μ
箕 き ミボシ 射手座南部 いて座γ(アル・ナスル)



宿



斗 と ヒキツボシ 射手座中央部(南斗六星) いて座φ
牛 ぎゅう イナミボシ 山羊座 やぎ座β(ダビー)
女 じょ ウルキボシ 水瓶座西端部 みずがめ座ε(アル・バリ)
虚 きょ トミテボシ 水瓶座西部 みずがめ座β(サダルスウド)
危 き ウミヤメボシ 水瓶座の一部+ペガサス みずがめ座α(サダルメリク)
室 しつ ハツキボシ ペガサス座の四辺形の西辺 ペガサス座α(マルカブ)
壁 へき ナマメボシ ペガサス座の四辺形の東辺 ペガスス座γ(アルゲニブ)
西


宿



奎 けい トカキボシ アンドロメダ座 アンドロメダ座ζ
婁 ろう タタラボシ 牡羊座西部 おひつじ座β(シェラタン)
胃 い エキヘボシ 牡羊座東部 おひつじ座35番星
昂 ぼう スバルボシ すばる(プレアデス星団) おうし座17番星(エレクトラ)
畢 ひつ アメフリボシ 牡牛座頭部(ヒアデス星団) おうし座ε
觜 し トロキボシ オリオン座頭部 オリオン座λ(メイサ)
参 しん カラスキボシ オリオン座 オリオン座δ(ミンタカ)



宿



井 せい チチリボシ 双子座南西部 ふたご座μ
鬼 き タマヲノボシ 蟹座中央部 かに座θ
柳 りゅう ヌリコボシ 海蛇座頭部 うみへび座δ
星 せい ホトヲリボシ 海蛇座の心臓部 うみへび座α(アルファルド)
張 ちょう チリコボシ 海蛇座中央部 うみへび座υ
翼 よく タスキボシ コップ座 コップ座α(アルケス)
軫 しん ミツカケボシ 烏座 からす座γ(ギェナー)



天球と星の位置

 星の位置を決めるために天球という概念があります。天球とは、地球の外側に大きな球が有り、星がそこに貼りついていると考えたものです。天球上で、地球の北極の真上にあたるところを天の北極、同じく南極の真上にあたるところを天の南極といい、赤道を天球に映したものを天の赤道といいます。地球から見た太陽の軌道を黄道といい、天の赤道に対して23.4度かたむいています。そして天の赤道と黄道が交わる点を春分点、秋分点とします。

 キトラ古墳天文図に合わせて、南を上に描いています。天球図を平面的に描くと、上の右図のようになります。

以 下は、北半球での説明です。
内規円は、観測者が北を向いて、北極から地平線まで真っ直ぐ線を引きます。これを半径として、夜空の回転と同じく北極星を中心に描いた円が内規円です。内規円の中の星は地面より上にあるために沈まない星ということになります。

赤道円は、北極と南極を線で結んで真中から垂直に伸ばして円を描くと赤道になります。天の赤道円は、その延長円になります。

黄道は、天空の中での太陽の軌道で、赤道に対し23.45度傾いています。そして赤道と黄道が重なる点が2つあり、それが「春分点」・「秋分点」になります。

外規円は、内規と反対に観測者が南を向いて、南極から地平線までの半径で、 南極を中心とした円なります。つまり、外規円の外側は、いつも地面の下にあって見えない星になります。また、内規円と外規円の間の星々は、天空を登ったり沈んだりする星々になるわけです。

 使い慣れない言葉が並び、難しいですね。では、少し想像してみてください。北半球を北に向かって進んでいると考えてみましょう。北極星は、どのように見えるでしょうか。次第に天頂に向かって高い位置に見えてくることは想像できますね。同時に周囲に沈まない星が増えてきます。つまり、内規円内の星が増えたということです。では、振り返ってみましょう。南の空にあった星々は見えなくなりました。南半球で有名な星座「南十字星」は、南の国に行かねば見えないでしょう。

 つまりは、そういうことなのです。見えなくなってしまった星は、外規円の外側に出たことになります。
仮に観察者が北極に居たとすると、内規と外規と赤道は重なっています。そこから南に向かえば 内規と外規は次第に小さくなり、赤道は傾いてきます。それならば、内規や外規に含まれる星や赤道の傾きや内規円と赤道円の大きさの比率などを調べれば、どの緯度で観測したかが割り出せます。その緯度で当時観測可能な施設や都市などを調べれば、どこで行った観測が元になっているかが分かります。

 キトラ古墳の天文図は、内規180mm・赤道425mm・外規640mmだそうです。この比率を計算することにより位置を特定するのですが、その答えは北緯38.375度になるそうです。つまり、北朝鮮の平壌付近が近い緯度になります。


 キトラ古墳の天文図は、何処から見た星空なのか、その謎に挑んだ2人の天文学者が、今年7月、中国の可能性が高いとする新たな研究成果を発表しました。1人は4世紀頃に古代中国の都があった長安(西安)や洛陽付近の北緯34度で観測されたという説。もう1人は、紀元前1世紀中期頃、中国で観測されたという説が発表されました。

 詳しくは、飛鳥遊訪マガジン掲載の「特別投稿 -キトラの星空 キトラ古墳天文図の調査から-」をお読みください。


飛鳥光の回廊2015 飛鳥資料館会場
両槻会作成 光の地上絵 朱雀部分デザイン原図 




ページトップへ ▲

第51回定例会 事務局作成資料 第51回定例会 レポート



ページ作成 両槻会事務局
画像及び文章の無断転載・転用は禁止します。
両槻会TOPへ戻る