両槻会(ふたつきかい)は、飛鳥が好きならどなたでも参加出来る隔月の定例会です。 手作りの講演会・勉強会・ウォーキングなどの企画満載です。参加者募集中♪


両槻会第14回定例会

   野守は見ずや 名柄の遊猟(みかり


資料編 1

この色の文字は、リンクしています。
薬草一覧表 (索引) ・ 定例会レポート 

 この資料は、両槻会スタッフ 笑いネコとP-saphireが両槻会発行メルマガ(飛鳥遊訪マガジン)に「第14回定例会用飛鳥咲読」として連載したものを整理し、メルマガに書ききれなかったことを追加してまとめたものです。取り上げた薬用植物の植物としての特徴、生薬としての効能等を笑いネコが書き、つづいてP-saphireが万葉時代から現代までの利用法やこぼれ話を書いていくという体裁になっています(☆印の部分)。

 (この一連のページは、第14回定例会当日、配布資料として準備したものに、さらに手を加えてサイトアップしています。)



 生薬の話を始める前に、藤原京出土木簡のことについて、少しお話ししておきます。参考にしたのは、奈良国立文化財研究所から1989年5月に出された「飛鳥・藤原宮発掘調査出土木簡概報(九)」という報告書です。これは、藤原宮第55次、第58次、第58−1次、第59次、第58−5次調査で出土した木簡についての報告で、このうち生薬名と思われる記載が見つかっているのは、第58次と第58−1次ですが、ほとんどが第58−1次調査地から出土しています。



藤原宮木簡出土地点
赤丸の所が第58次調査区、第58−1次調査区です。
 
 この第58−1次調査の調査地は藤原宮の西南部で、宮西面南門の位置と宮に先行する条坊遺構である五条大路の規模を確認する調査だったのだそうです。
 木簡は、この調査地の西面内濠SD1400という遺構から出土しました。出土したのは136点(内削り屑67点)で、35点に生薬名又はそれに関係あると思われる記載があります。
 記載の多くは「人参十斤」というように「生薬名+量」という形で書かれていて、それに産地と思われる地名が書かれているものもあり、納品書のようなものだったと思われます。また、とても興味深いのは、「□□□四両桃四両桂心三両白三両□車前子三両防風三□両栢実一両 右九物」(□は欠字です)と書かれた木簡です。はっきり読めるのは6種類ですが、最初の「□□□」や車前子の前の「□」、防風の次の「□両」という部分にも生薬名があったとすると、9種類になりますから、これらの9種類の生薬を配合して漢方薬を作る処方箋のようなものだったのではないかと、想像をたくましくしています。
 藤原京から出土した生薬名の書かれた木簡は、この資料に載っている物だけではありません。奈良文化財研究所のホームページにある「木簡ひろば」のデータベースを使うと、藤原宮で出土した5377点の木簡が出てきます。この内生薬名が書かれている物が何点あるのか、まだ調べ切れてはいませんが、最初の450点ほどを調べただけでも、20種類以上の生薬名が見つかりました。「藤原京」「藤原宮」とややこしい書き方をしていますが、もちろん「藤原宮」は「藤原京」にある宮施設部分です。「藤原京」内で実際に生薬名の書かれた木簡が出土するのは、ほとんどが「藤原宮」からになります。この資料では、今回ご案内する田村薬草園で見られるもの、漢方薬やハーブなどでよく知られているもの、野草として身近に見られるものを中心に話を進めていこうと思います。

 ☆最近にわかに人気が出た言葉に「薬膳(やくぜん)」があります。平たく言えば、薬効のある物が入った食べ物の事で、この言葉は1980年の中国のあるレストランで使われ出したのが始まりと言われています。意外と新しい言葉です。しかし、薬効のある物を食べるという行為自体は古く、中国の周時代(BC1.000〜256)の「周礼」という本の中に、皇帝のための宮廷医を「食医」と呼び、その「食医」の大切な仕事は栄養管理で、食材を組み合わせてメニューを考え、食事療法での治療をしたとされます。病気になれば薬をすぐに処方する今の西洋医学とは違い、病気の根本的理由(どうして病気になったのか)を探り、日常の食事を正す事で人間の体の自然治癒力を高め、病気の原因から改善させる方法をとっていました。
 病気が症状として現れていない状態を<未病(みびょう)>と言いますが、未病の間に薬効のある物が入った食事で体内のバランスを整えて、病気にならないようにするのが目的で、病気になったからと言って薬膳で病気を治すのではないという事を先に述べさせいただきます。
 って、何が言いたいのか・・・要するに、「毎日三度の食事の中に、体に良い食べ物を上手く取り入れていけたら最高じゃないか」と言いたいわけです。(笑)難しい知識の追求ではなく、美味しさの追求。美味しくなければ、どんなに体に良くても続かないと言うのが私の持論です。そんなこだわりを持ちながら、笑いネコさんと同じ植物を今度は、万葉時代から現代までの利用法やこぼれ話を探りながら書いていきたいと思います。

【 煎じるコツ 】
 生薬を煎じる場合、一番大切なのは<煎じる時間>です。煎じる時間は40分から1時間ぐらいで行い、すぐに茶漉しで漉して下さい。長く煎じると、色が濃 く出ますが、長時間煮詰めてしまうと別の成分に変化する事がありますし、短すぎると成分がちゃんと抽出出来ない事があります。くれぐれも時間を守って頂き たいと思います。

【 食材の性質 】
 生薬は<五味>と<四気>で表されることが多いので、簡単にご説明させて頂きます。

<五味>
酸・・・酸い味   :収れん作用がある。肝臓、胆嚢、目に利あり
苦・・・苦い味   :消炎作用がある。 心臓に利あり
甘・・・甘い味   :発散作用がある。 肺、鼻、大腸に利あり
鹹・・・塩辛い味  :柔和作用がある。 腎臓、膀胱、耳などに利あり

<四気>
寒・・・身体を冷やす役目・・・のぼせや高血圧に利あり
熱・・・身体を温める役目・・・貧血や冷え性に利あり
温・・・熱と同じだが、熱よりは弱い
冷・・・寒と同じだが、寒よりは弱い
「平」と表記されている場合もあり、寒でも熱でもないものとされます。 




    
薬草資料



植物名:「アカヤジオウ」ゴマノハグサ科ジオウ属の多年草
生薬名:「地黄(ジオウ)」
木簡記述:「□地黄五□」「石川阿曽弥 所賜忽生地黄」


 「アカヤジオウ」又は「カイケイジオウ」の根を用いるもので、そのまま乾燥したものを「生地黄(ショウジオウ)」、蒸してから乾燥したものを「熟地黄(ジュクジオウ)」といい、補血、強壮、解熱薬として、同じように用いるようです。木簡に書かれているのは「生地黄」と「□地黄」の2種類で、□に「熟」の字が入るのか、「生」の字が入るのか分かりません。

☆日本には、奈良時代に薬用の目的で持ち込まれました。古名をサホヒメ(佐保姫)と言います。佐保は<春の女神>で、奈良の佐保山の祭神で、春霞は姫が織り出すものとされていました。ジオウがなぜサホヒメなのかと調べましたら、「花が綺麗だから」と書れていました。
 民間療法では、切り傷に生の根茎のしぼり汁をつけると止血効果があるといわれています。ジオウを食べ物としては食べられていないみたいです。まぁ、根っこですしねぇ〜。(笑)







植物名:「イチハツ」」アヤメ科アヤメ属の多年草
生薬名:「鳶尾(エンビ)」
木簡記述:「鳥児大豆塩无」


 この「塩无」が何であるか確定できるまでいっていません。「鳶尾(エンビ)」という生薬はあるのですが、「无」の字は「ム」又は「ブ」としか読めないので、まだ候補程度です。「鳶尾」だとすれば、この「イチハツ」です。神農本草経という漢方薬のバイブルのような書に因れば「治蠱毒邪気」という効能があるのだそうです。日本では大風を防ぐという言い伝えがあり、農家の藁葺き屋根の棟上に植える習慣がありました。面白いのは、種名の「tectorum」も「屋根の」という意味なのです。ってことは、学名を付けたのは日本人?
 「イチハツ」の特徴は、6枚の花びらの内、下向きに垂れ下がる大きい3枚の中心部に白い鶏冠状の突起があることです。よく目にするアヤメ科の中で、この鶏冠状突起があるのは、「イチハツ」と外国産の園芸品種「ジャーマンアイリス」だけです。

 ☆イチハツ、「和名抄」にはコヤスグサ(子安草)の名で記載されています。アヤメ科では一番乾燥に強く、昔は火災や大風からの魔よけと信じられ、かやぶき屋根に植えられていました。園芸店では、イチハツと称してニオイイリスが売られているのでご注意下さい。

 「治蠱毒邪気」・・・蠱毒(こどく)や邪気を治すと言う意味で、こどくとは昆虫や動物の霊を操って行う呪術を指します。



植物名:「イノコズチ」ヒユ科イノコズチ属の多年草
生薬名:「牛膝(ゴシツ)」
木簡記述:「牛膝十三斤」


 そうです、何処の空き地にでも生えていて、犬の散歩などの時に衣服や犬の毛に果実がくっついて、取るのに大変な思いをする、あの「雑草」君です。(笑)
 嫌われ者の「イノコズチ」もその根から、利尿作用や抗アレルギー作用がある生薬が採れるんですよ!!
 名前の由来は、茎の膨らんだ部分を猪の膝頭に見立てたものだそうです。生薬名は「牛の膝」ですから、中国と日本では、見立て方が違っていたということでしょうね。

 ☆道端の厄介者ですが、梅雨時の若い葉や穂を採って天ぷらにしたり、和え物、バター炒めにすると意外に美味しい。薬用としては、秋から冬にかけて地上部が枯れたころに根を掘り採り、水洗いして天日で乾燥させます。これを生薬で牛膝(ゴシツ)といいます。煎じて飲むと、神経痛、リューマチに効くとして有名。
 本草和名(918年)には、為乃久都知(いのくづち)、都奈岐久佐(つなぎぐさ)という記述があります。



植物名:「ウコギ」「エゾウコギ」ウコギ科ウコギ属の落葉低木
生薬名:「五加皮(ゴカヒ)」
木簡記述:「■(草冠に五という字)茄十斤」「五茄□」「□□皮十斤」など


 「根皮」を生薬として使います。生薬で言う「五加」の中国読みが「ウコ」で、これに日本語の「木」が付いて「ウコギ」です。もちろん日本原産種ではなく、中国から古い時代に、多分薬用植物として渡ってきたもので、現在では生垣などに使われているのが見られる他、野生化したものもあるそうです。今は「エゾウコギ」という別種を栽培して、「五加皮」を採っているようで、抗ウィルス作用や、免疫賦活作用、血糖値を下げる作用などがあります。また、子供の骨や筋肉の発育不良を治療するのにも用いるとか。

 ☆「ウコギと言えば米沢」と言われるくらい山形県米沢市の名産で、米沢藩九代藩主「上杉鷹山公」がウコギの垣根を奨励し飢饉に備えたとされ、今でも町中のあちらこちらで見られます。「ウコギの一等美味しい食べ方は?」と聞くと「ウコギ飯」と返答があるくらいにご飯に混ぜると美味しいそうです。さっと茹でたウコギをみじん切りにし、塩を振りかけたご飯とまぜるとウコギ飯の出来上がり〜ですが、炊きたてのご飯と混ぜてしまうと、せっかくのウコギの緑が変色してしまうので、やや冷めたご飯に混ぜるのがコツなのだとか。ウコギの新芽はタラの芽に良く似ていて、同じように天ぷらにしても美味しく食べられます。ホロッと苦くて春の味。木はトゲがあり泥棒避けに、新芽は食用、根は薬用と、何役も兼ねられまた栄養価も高く、ホウレン草の5倍のカルシウム、3倍のビタミンCに加え、抗酸化性を有するポリフェノールも多量に含んでいるって言うからすごい!!生垣を造るなら是非ウコギで。(笑)


☆画像は、ウコギ科で良く似た植物の比較です。ウコギ、コシアブラ、タラノキ。どちらも同じように食べられます。

【煎じ薬】としての利用法です。
<関節リューマチ、足腰の疲労、インポテンツ、遺尿、小児の発育不良、疝気(せんき)、腹痛などの場合>
 五加皮を1日量10〜15グラムに、水0.5リットルを加えて、煎じながら約半量まで煮詰めたものをこして、食間か食前に服用します。
<腰痛や下腹痛>
 1日量乾燥した葉15グラムか、葉、茎、根皮を混ぜたもの20グラムを同様に煎じて3回に分けて服用します。

【調理法】強壮食として利あり。
(新芽、新葉)・・・てんぷら、おひたし、からしあえ
(ふりかけ)・・・若芽、若葉を摘み取り蒸して乾燥させて、よくもんで細かくして、焼塩を混ぜてごはんにふりかけて食べます。



植物名:「ウスバサイシン」「サイシン」ウマノスズクサ科ウスバサイシン属の多年草
生薬名:「細辛(サイシン)」
木簡記述:「西辛一両」



 根と根茎を使います。薬効は、鎮痛、麻酔、平喘、抗菌、鎮痛、鎮静作用で、「小青竜湯」等に配合します。歯痛の治療にも使えるそうです。肺結核の咳嗽や痰飲による咳嗽以外の乾咳には、用いるべきではない、という注意事項もあります。
 山地のブナ林など落葉樹の下の湿った所に生育し、全体が特有の臭いをもつそうです。葉っぱが2枚セットで出てくるのが特徴で、葉っぱの付け根に地味な色の花を付けます。この茶褐色のは、花びらではなく萼です。「ウスバサイシン」は、アゲハチョウの仲間「ヒメギフチョウ」の幼虫の食草としても知られています。また、山野で見られる似た植物に、「フタバアオイ」と「ランヨウアオイ」というのがあります。「フタバアオイ」は「ウスバサイシン」同様葉っぱが2枚セットで出てくるのに対して、「ランヨウアオイ」の葉は1枚です。また花の萼の先端が3つに割れて大きく外に反り返るのが「ウスバサイシン」と「ランヨウアオイ」、丸まったように見えるのが「フタバアオイ」です。

 ☆サイシンは細辛と書きますが、その名の通り、食べると辛い。テレビドラマの水戸黄門で、毎度印籠を出されますが、あの印籠に書かれてあるのはフタバアオイ(カモアオイ)だそうです。徳川家の三つ葉葵の原形は、二葉葵で、加茂明神信仰から出ています。それを基に、一門で本末を区別するためいろいろな葵紋を作ったそうです。サイシンは漢方薬として他の薬草と一緒に様々な処方をなされますが、サイシン単体で使うことはないそうです。やっぱり辛いからでしょうね・・・。



植物名:「ウメ」バラ科サクラ属の落葉小高木
生薬名:「烏梅(ウバイ)」
木簡記述:「无耶志國薬烏□」(□は欠字)


 使うのは未成熟果実ですから、いわゆる青梅。これを薫蒸したものが「烏梅」...薫蒸したら黒くなるから、と簡単なネーミング♪ 
 薬効は、鎮咳、下痢止め、駆虫だそうです。
 木簡では「烏□」(□は欠字)となっていまして、実は、該当するのは「烏梅」の他に、「烏薬(ウヤク)」「烏樟(ウショウ)」「烏頭(ウズ)」などあるのですが、飛鳥咲読ではPさんの食べ物ネタにも合うように、「烏梅」にしてみました。って、勝手に決めて良いんだろうか?(^_^;)

 ☆笑いネコさんからあえて「Pに合わす!」と、<烏梅>にして下さったので、こりゃ〜なんとかせねばとあれこれ考えました。が、これがまた難問。ってか、普段こんなん口にしませんやん。(笑)と言うことで、ちょっと話は反れますが、中国や台湾には「烏梅汁(ウーメイジー)」や「酸梅湯(ソワンメイタン)」と呼ばれる烏梅を使ったジュースがあります。烏梅汁は文字通り烏梅を煮出したもので、酸梅湯は、烏梅、陳皮、サンザシ、甘草を合わせて煎じたもの。何れもやや苦味があるらしい。あちらではとてもメジャーで、空港でも飲めるそうですが、日本では見たことが無いと言う事は・・・あまり美味しくないのかな?日本では薬として利用する以外は、染色(特に紅染め)の媒染剤(ばんせんざい)として利用しているぐらいでしょう。



 画像は烏梅の作り方を簡単に描きました。ご参考にして下さい。

 木簡記述の「无耶志國薬烏□」・・・武蔵の国 薬 烏□ と言う意味です。



植物名:「ウヤク」クスノキ科クロモジ属の常緑低木
生薬名:「烏薬(ウヤク)」
木簡記述:「无耶志國薬烏□」(□は欠字)


 飛鳥咲読では、取り上げませんでしたが、かなり著名な(?)生薬なので、「烏薬」もご紹介しておきます。「ウヤク」の根を使います。中国原産で享保年間に伝わってきたということなので、藤原京の時代は生薬の形で輸入されていたと思われます。中国の天台山の「ウヤク」が最高品質なので、「テンダイウヤク」と呼ぶようになったそうで、「ウヤク」と「テンダイウヤク」は同じものです。薬効は健胃、鎮痛作用などです。



植物名:「ウラルカンゾウ」マメ科カンゾウ属の多年草
生薬名:「甘草(カンゾウ)」
木簡記述:「甘草二両」



 根を使います。原産地はヨーロッパ南部、中国西部で根の成分グリチルリチンは、砂糖の数十倍の甘味があり、甘味料として添加されますが、少し癖のある甘味です。リコリスともいい、アメリカなどではキャンディーやグミのような菓子に使われています...真っ黒けで、美味しくないんですが!(^_^;)
 薬効は、鎮痛、鎮咳、去痰、解熱、消炎、鎮静、健胃、強壮...すごく用途の広いものです。
 図の「ヤブカンゾウ」は、古名を「ワスレグサ」といい、万葉集にも詠まれている花で、食用にはしますが生薬としては利用されていません。漢名は「萱草(カンゾウ)」で、字が違います。

 ☆日本では、お醤油やタバコの甘味料として利用されています。



植物名:「オオバコ」オオバコ科オオバコ属の多年草
生薬名:「車前子(シャゼンシ)」
木簡記述:「車前子三両」


 漢方薬の配合を書いてあるのではないかとネコが考えている木簡に出てくる生薬ですが、これの正体は「オオバコ」なのです。この種子を「車前子」と言い、消炎、利尿、止瀉薬として、夏季の下痢、膀胱炎などの治療に使われてきました。また、植物全体を「車前草」といい、これも生薬です。

 ☆若葉の筋に包丁で切り目を入れ(筋に切り目を入れないと、膨張して油が飛び散りますので危ないです。)生のまま天ぷらにします。また、塩を入れて茹でてからおひたしや和え物にします。
 面白い事に種子は、水を含むと約40倍にまでぐんと膨張します。まるで紙オムツのような感じで、近年はそれをダイエット食に利用しようと研究がなされています。



植物名:「オケラ」キク科オケラ属の多年草
生薬名:「白朮(ビャクジュツ)」
木簡記述:「白朮四□」(□は欠字:斤か?)


 根茎を使います。古くから日本にあった植物で、古名を「ウケラ」というのですが、語源ははっきりしません。「オケラ」で変換すると「螻蛄」というのが出てきますが、これは「ケラ」という昆虫のことで、前足で上手に土を掘って土の中で暮らしています。「ジーッ」という鳴き声で、よくミミズの鳴き声と誤解されたりしている虫です。
 薬効は、健胃、強壮、止瀉、利尿作用で、お正月に飲むお屠蘇にも入っています。また、蚊遣りとしても使われるそうです。中国では唐王朝の時代(650年ごろ)から広く利用されていて、人参(チョウセンニンジン)、伏苓(ブクリョウ)、甘草(カンゾウ)とともに有名な煎じ薬、四君子湯に調合されます。
 
 ☆「山でうまいはオケラにトトキ」と、山菜を摘む人なら大抵ご存知の話です。春の若芽を摘んで天ぷら、和え物、汁の実にします。花を守るように棘のような苞がありますが、冬に地上部が枯れても残っていますので、この苞を目印に探して下さい。むちゃくちゃ美味しいのか?と問われれば疑問も残りますが、あくもクセもない、食べやすい山菜です。ちなみに、トトキとはツリガネニンジンの事です。

蚊遣り(かやり)・・・害虫を追い払うために煙をいぶらせることで、今の蚊取り線香のような感じです。

(ぶくりょう)・・・松の木が枯死した後に松の根に寄生するサルノコシカケ科のマツホドと言うキノコ菌を薬用にした物です。

四君子湯(しくんしとう)・・・胃腸の働きを良くして、体内にある水分の停滞を改善すると言われます。




植物名:「オタネニンジン」ウコギ科トチバニンジン属の多年草
生薬名:「人参(ニンジン)」
木簡記述:「人参十斤」


 八百屋さんに売ってる人参ではありません。ってことくらい、ご存知でしょうか?(笑)
 俗に「朝鮮人参」と言われているものです。もちろん使うのは根です。
 「補薬の王」と言われるくらい、新陳代謝を盛んにし、中枢神経を興奮させ、免疫機能を増強する、スーパー生薬です。ちなみに、効果が強いので、健康な人は摂りすぎないように、という注意があります。

 ☆これね、西洋人参と違って苦味が強いんです。「高麗人参茶」なる物を飲みましたが、やはり苦味は消えていなくて大量に飲めるものではありません。スッキリとした苦味ではありますが、お代わりを所望するほどでは・・・。韓国の人から「人参酒」と言う高麗人参を焼酎で漬け込んだ物を頂いた折、「お酒を飲み干した後の人参は、細切りにして天ぷらで召し上がって下さい」と教えられ実践してみましたが、これもとても苦くて食べられた物ではありませんでした。苦味に対する寛容さにはお国柄も関係するのだろうか?と思ったくらいです。(笑)
 「御種人参(オタネニンジン)」と言われるようになったのは、八代将軍徳川吉宗がこの人参を対馬藩に命じて試植させ、その後各地の大名に種を分け栽培を奨励したことに由来すると伝えられています。意外と近年なんですね。
【注意!!】
 高血圧の人の場合は、血圧をあげることがあります。


植物名:「カヤ」イチイ科カヤ属の常緑高木
生薬名:「榧子(ヒシ)」
木簡記述:「非子」「子」


 木簡記述の「非子」ついては、二つ考えられます。一つは「菱の実」、もう一つはこの「カヤ」の実で虫下しとして使われるようです。ただ、本来は「榧」と書くと、日本の山地に自生している「カヤ」ではなく、中国の別種なのだそうです。

 ☆秋の彼岸頃に落ちたカヤの実をひねると種子が飛び出します。灰汁に一週間浸け、乾燥し、煎って種皮を割り、出てきた実の渋皮を爪でしごいて、蜂の子のような胚乳の部分を食べると、非常に美味しいのだそうです。同じ食べ方をしていたかどうかは不明ですが、縄文時代には沢山食べられていたそうです。
 木自体は、水や湿気に強く、細工物に使われる事が多く、特にカヤの碁盤は有名で、そろばん、数珠などにも加工されています。



植物名:「カワラナデシコ」または「セキチク」ナデシコ科ナデシコ属の多年草
生薬名:「瞿麦(クバク)」
木簡記述:「■麦一斤十両(■は木偏に瞿)」



  開花時の地上部を干して用いるそうで...何か、もったいない気がしますが。(笑)
 利尿作用などがあり、尿路疾患、膀胱炎とか尿路結石の治療に使われます。
 開花したものを用いる生薬は、そんなに多くありません。ほとんどが果実になってから、あるいは熟して種子が出来てから使います。
 余談ですが、「コブシ」はつぼみの堅いうちに摘み取って生薬とします。「モクレン」も同様で、咲いてしまったら効果はないのだそうです。生薬名は「辛夷(シンイ)」といいます。ちなみに、この「辛夷(シンイ)」で一番良く効くのは「タムシバ」だそうです。写真は「タムシバ」の蕾です。

 ☆ナデシコは中国から入ってきた物を「唐撫子」日本に自生していた物を「河原撫子(大和撫子)」と区別をしました。ナデシコは別名「常夏」と言います。それはひと夏中庭に咲いているからだと言われています。万葉時代、すでにとても愛された花で、万葉集には26首のナデシコの歌が残されています。その多くは「あなたが(庭の)ナデシコだったらなぁ〜(毎日見ることが出来るのに)」と、恋人をナデシコに見立てて詠まれていますので、一般的に身近に咲いていた花だったと思われます。可憐な花なので、あえて花を食べようなんて思わないのですが、茹でてから冷水で晒してアク抜きをすれば食べられます。しかし、これも注意があって、妊婦は堕胎の恐れがあるので絶対に食べないようにして下さい。

 「タムシバ」・・・モクレン科モクレン属の落葉小高木で、別名を「ニオイコブシ」と言います。コブシにそっくりですが、花の下に葉をつけるのがコブシ、葉をつけないのがタムシバ。噛むと甘いので「噛む柴」から「タムシバ」となったそうです。



植物名:「キキョウ」キキョウ科キキョウ属の多年草
生薬名:「桔梗(キキョウ)」
木簡記述:「无耶志國薬桔梗卅斤」



 使うのはこの根で、「人参」の根に似ています。薬効は去痰、鎮咳、消炎。元々は山野の草地に生育していたのですが、現在は自生種はほぼ絶滅しています。


 ☆春から初夏に若芽や茎の先の柔らかいところを摘み、茹でて水に晒してアク抜きをしてから、ごま和え、酢みそ和えに。秋になると根を掘り起こして利用しますが、根は有害成分(サポニン)を含むので割ってしばらく水に晒してからでないと中毒を起こします。
 日本では秋の七草として有名で、観賞用にすることの方が多いのですが、韓国ではキキョウのことを「トラジ」と言って、一般的に食材として利用されています。トラジキムチは、トラジ(キキョウの根)を、唐辛子、にんにく、水飴、砂糖、いりこ、食塩などを混ぜた<ヤンニョム(薬念)>と言う合わせ調味料で漬け込みます。また生菜(センチェ)やナムルにしても食べられています。高麗人参と同じサポニンを大量に含み、見た目にも良く似ているので、江戸時代は高麗人参の代用品として売られていました。



植物名:「クズ」マメ科クズ属のツル性多年草
生薬名:「葛根(カッコン)」
木簡記述:「葛根六斤」

 皆さんお馴染みの葛根湯の「葛根(カッコン)」です。
 で、いたる所の空き地などに生えています。生命力が強く樹木に覆い被さって、その生育を邪魔することもあり、邪魔者扱いされることもあるのですが、よく見ると花はなかなか美しいですし、その根から採ったデンプンは葛粉として利用されます。生薬の「葛根」も文字通り「葛の根」です。「クズ」という名は、上質の葛粉の産地である吉野の国栖(くず)に由来するという説もありますが、はっきり分かりません。
 薬効は、発汗、鎮痛、解熱作用で、葛根湯の主成分です。

 ☆食用としては葛切りや葛餅などがあり、くず粉は和菓子の材料として有名です。また食用以外にも蔓を加工して籠などに利用されます。私は年に一度ぐらいの割合で、ゴマ豆腐を自分で作りますが、その大切なアイテムの一つがこの葛の根から採取される葛粉です。普通<葛粉>と表記されているものの大半は馬鈴薯から作られていますが、葛から採取されたものは<本葛粉>と書いて区別されています。独特のねばりとツルリとした喉越しは、本葛粉でなければと、私なりのこだわりを持っています。(笑)

<ゴマ豆腐>
(材料)
ごま・・・1/2カップ
本葛粉・・1/2カップ
水・・・・3カップ半
塩・・・・少々
1.ゴマをフライパンで乾煎りしてからすり鉢で油が出るまでよ〜く擂る。
2.分量のお水を少しずつ加えながら、ただひたすら擂る。
3.別容器に葛粉を入れて、2を少量加えて良く練り、溶けたのを確認したら残りを入れ  てかき混ぜたら一度漉して鍋に移す。
4.塩を少々入れて中火でじっくり練り、透明になったら型に流しいれて冷やし固める。
5.固まったら取り出して切り、器に盛って、食べる時にワサビ醤油を添えて。

<その他>
★若芽を採取して、皮を爪で剥いてサッと茹でて水に晒し、炒め物、和え物に。
 天ぷらにする時は生のまま皮を剥かずに調理する。
★花はサッと茹でて酢の物にすると、とても色が綺麗です。
★大きな葉は、そのまま天ぷらにしても食べられます。また、天日で干してから煎じてお 茶として飲むと蕁麻疹など、お肌のトラブルに効き目があります。



植物名:「クララ」マメ科クララ属の多年草
生薬名:「苦参(クジン)」
木簡記述:「受被給薬/車前子一升○西辛一両/久参四両○右三種‖・多治麻内親王宮人正八位下陽胡甥 」


 「クララ」の根を用います。日の当たる草地や河原に生え、根を噛むと苦味で目がクラクラするので「クララ」という名が付いたと言われています。

 薬効は、健胃、解熱、駆虫剤としても使います。根を煎じて飲んだり、入浴剤にして、あせもなど皮膚病の治療にも使います。

 ☆クララをはじめ、ルピナス、エニシダなど、マメ科の植物は,キノリチジンアルカロイド(quinolizidine alkaloid)を含んでいますので、むやみに口にしないようにお願い致します。まぁ、食べても眩暈を起こすほど苦いらしいので、多食は出来ないと思いますが。(笑)

 木簡記述から・・・「受け給わらん薬/車前子(オオバコ)一升○西辛(サイシン)一両/久参(クララ)四両○右三種」但馬内親王の政人(まつりごとひと)正八位下陽胡の甥(やこのおい)と読めます。
 但馬内親王は、天武天皇の皇女で、母は藤原鎌足の娘(氷上娘:ひがみのいらつめ)です。晩年、病に臥しておられた但馬内親王邸から、藤原宮へオオバコやクララなどの生薬を請求された事がわかります。




植物名:「クロモジ」クスノキ科クロモジ属の落葉低木
生薬名:「烏樟(ウショウ)」
木簡記述:「无耶志國薬烏□」(□は欠字)


 飛鳥咲読では、取り上げませんでしたが、爪楊枝の代名詞のような「クロモジ」の枝や幹を使う生薬なので、ご紹介しておきます。樹皮に黒い斑点があるので、それを文字になぞらえて「黒文字」となったといわれ、樹皮によい香があるので樹皮を付けた状態で爪楊枝に使います。中国産の物を「釣樟(チョウショウ)」といいますが、牧野博士に因れば、これは別種だそうです。薬効は、去痰、鎮咳、鎮静、催眠作用だそうで、爪楊枝を加えて食後に居眠り?!(笑)

 ☆細工しやすい木なので、色々に利用されています。葉や実からは香油が採れます。
 隠岐では<フクギ>と呼び、この葉や枝を干してお茶にしたものを<福来茶:ふくぎちゃ>として飲まれています。お風呂に入れると、体がとても温まります。
 関節リューマチ、打撲傷の患部などには、新鮮な葉をもみ潰して油で炒め、塗布します。



植物名:「コガネバナ」シソ科タツナミソウ属の多年草
生薬名:「黄(オウゴン)」
木簡記述:「黄二両」


 周皮を除いた根を使います。原産地は中国北部、青紫の花が美しい植物です。
 薬効は、解熱、消炎、止血作用で、坑炎症薬、アレルギー治療薬に使われています。
 

   資料編 2  ・  薬草一覧表・索引
第14回定例会レポート

資料作成 両槻会事務局 笑いネコP-saphire
     ページ作成 両槻会事務局 風人

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